昔飼ってた犬がイケメン男子高校生になって会いにきた話
葉月が家に帰ると、家の前に誰か人が立っているのが見えた。
暗くて顔がよく見えず、周りに誰もいなかったため、少し警戒しながら横を通り過ぎた。
「葉月さん」
なんだか聞き覚えのある声が後ろからした。
わかった、この声は翔の声だ。
翔とはあれから連絡を取っていない。と言うのも、翔が父のことばかり言うため、嫌になって葉月から連絡を閉ざしていたのだ。
だから翔はここで、葉月が帰って来るのをずっと待っていたのかと思うと、葉月は申し訳ない気持ちになった。
「葉月さん、何で連絡返してくれないんですか? 電話もかけたのに」翔は葉月の後ろで話しかけた。
葉月は翔に背を向けながら、「ごめん」とだけ言った。
「葉月さんがお父さんと仲直りしたくないのはわかってます。でも、このままでいいのかなって、俺思うんですよ。お節介かもしれないけど、ちゃんと解決しましょうよ」
「私だって、こんな状態でいるのはいやだよ。でも、解決の方法がわからない」
「じゃあ、俺と一緒に山梨まで行きましょう」
翔がそう言うと、今まで背を向けていた葉月はようやく翔に向き直る。
一緒に山梨に……。まだ父と話す気にもなれていないのに。
葉月が返事をしぶっていると、「山梨に行って直接会って、葉月さんのその怒りを、思いっきりお父さんにぶつけてやりましょうよ」と翔は明るく言った。
「私の怒りを?」
「そうですよ。だって、まだお父さんに言ってないんでしょ? だったら、もうこの際言ってやりましょう」翔はそう言うと、すぐ側にあった電柱に向かって、人間の首にするようにヘッドロックをかけ始めた。
「お前何やってんだよ! お母さんに迷惑かけてんじゃねーよ! って」
通行人はそんな翔を見てクスクスと笑っている。
「ちょっ、恥ずかしいからやめて」そう言いつつ葉月もそんな翔を見て笑っていた。
「でも、俺こんな風に言ってますけど、お父さんは俺の恩人でもあるんですよね。葉月さんだけじゃなくて、お父さんも助けたいんですよ」翔はそう言うと電柱から身を離し、葉月の元へと近づいた。
「俺が捨てられてたことは知ってますよね? まだ子犬だった時の話」
「うん。聞いたことある」
「人目のつかない林の中で、段ボールに入れられて、餌も何ももらえずに捨てられてたんですよ」
翔の話を葉月は黙って聞いた。
「それに、他の動物にやられるかもしれないし、餓死して死んじゃうかもしれないって時で、いつ死んでもおかしくなかった。そんな時、葉月さんのお父さんが俺を見つけて保護してくれたんです。だから葉月さんのお父さんのこと、あれ以来ずっと恩人だと思ってるんですよ」翔は切ない顔でそう言った。
「そうだったんだ……」
「だから、お父さんが不倫してようが何だろうが、葉月さんはいやかもしれないけど、俺はお父さんの味方でもあるし、葉月さんの味方でもある」
葉月は翔が自分だけの味方ではないことに少しがっかりしたが、父は翔の恩人なのだからと仕方なく諦めることにした。
「葉月さん、俺と一緒に山梨に行ってくれますよね?」
葉月はまだ躊躇っていた。翔と一緒に山梨に行きたい気持ちもあったが、やはり四年と言う差は大きかった。それに面倒だと言う気持ちが何より優っていた。
「ありがとう。気持ちは嬉しいけど、無理なものは無理。ごめんけど、帰って」
それだけ言うと、葉月は翔に構わずエントランスを開けてエレベーターまで走った。
「葉月さん!」翔は葉月を大きな声で呼んだ。
しかし、その声は届くことなく、葉月は翔に背を向けながらエレベーターを閉めて上まで上がって行った。
本当は翔が言っていたこと、嬉しかったし、あそこまで言ってくれて感動した。
でも、それとこれとは違う。
父と直接話すことによって傷つくかもしれないのは、葉月だけではなく、翔もかもしれない。
そんなリスクを背負ってまで、会いに行くなんて無理。
翔には悪いと思いつつも、このままでいた方がきっといいに違いないと葉月は思った。
☆
暗くて顔がよく見えず、周りに誰もいなかったため、少し警戒しながら横を通り過ぎた。
「葉月さん」
なんだか聞き覚えのある声が後ろからした。
わかった、この声は翔の声だ。
翔とはあれから連絡を取っていない。と言うのも、翔が父のことばかり言うため、嫌になって葉月から連絡を閉ざしていたのだ。
だから翔はここで、葉月が帰って来るのをずっと待っていたのかと思うと、葉月は申し訳ない気持ちになった。
「葉月さん、何で連絡返してくれないんですか? 電話もかけたのに」翔は葉月の後ろで話しかけた。
葉月は翔に背を向けながら、「ごめん」とだけ言った。
「葉月さんがお父さんと仲直りしたくないのはわかってます。でも、このままでいいのかなって、俺思うんですよ。お節介かもしれないけど、ちゃんと解決しましょうよ」
「私だって、こんな状態でいるのはいやだよ。でも、解決の方法がわからない」
「じゃあ、俺と一緒に山梨まで行きましょう」
翔がそう言うと、今まで背を向けていた葉月はようやく翔に向き直る。
一緒に山梨に……。まだ父と話す気にもなれていないのに。
葉月が返事をしぶっていると、「山梨に行って直接会って、葉月さんのその怒りを、思いっきりお父さんにぶつけてやりましょうよ」と翔は明るく言った。
「私の怒りを?」
「そうですよ。だって、まだお父さんに言ってないんでしょ? だったら、もうこの際言ってやりましょう」翔はそう言うと、すぐ側にあった電柱に向かって、人間の首にするようにヘッドロックをかけ始めた。
「お前何やってんだよ! お母さんに迷惑かけてんじゃねーよ! って」
通行人はそんな翔を見てクスクスと笑っている。
「ちょっ、恥ずかしいからやめて」そう言いつつ葉月もそんな翔を見て笑っていた。
「でも、俺こんな風に言ってますけど、お父さんは俺の恩人でもあるんですよね。葉月さんだけじゃなくて、お父さんも助けたいんですよ」翔はそう言うと電柱から身を離し、葉月の元へと近づいた。
「俺が捨てられてたことは知ってますよね? まだ子犬だった時の話」
「うん。聞いたことある」
「人目のつかない林の中で、段ボールに入れられて、餌も何ももらえずに捨てられてたんですよ」
翔の話を葉月は黙って聞いた。
「それに、他の動物にやられるかもしれないし、餓死して死んじゃうかもしれないって時で、いつ死んでもおかしくなかった。そんな時、葉月さんのお父さんが俺を見つけて保護してくれたんです。だから葉月さんのお父さんのこと、あれ以来ずっと恩人だと思ってるんですよ」翔は切ない顔でそう言った。
「そうだったんだ……」
「だから、お父さんが不倫してようが何だろうが、葉月さんはいやかもしれないけど、俺はお父さんの味方でもあるし、葉月さんの味方でもある」
葉月は翔が自分だけの味方ではないことに少しがっかりしたが、父は翔の恩人なのだからと仕方なく諦めることにした。
「葉月さん、俺と一緒に山梨に行ってくれますよね?」
葉月はまだ躊躇っていた。翔と一緒に山梨に行きたい気持ちもあったが、やはり四年と言う差は大きかった。それに面倒だと言う気持ちが何より優っていた。
「ありがとう。気持ちは嬉しいけど、無理なものは無理。ごめんけど、帰って」
それだけ言うと、葉月は翔に構わずエントランスを開けてエレベーターまで走った。
「葉月さん!」翔は葉月を大きな声で呼んだ。
しかし、その声は届くことなく、葉月は翔に背を向けながらエレベーターを閉めて上まで上がって行った。
本当は翔が言っていたこと、嬉しかったし、あそこまで言ってくれて感動した。
でも、それとこれとは違う。
父と直接話すことによって傷つくかもしれないのは、葉月だけではなく、翔もかもしれない。
そんなリスクを背負ってまで、会いに行くなんて無理。
翔には悪いと思いつつも、このままでいた方がきっといいに違いないと葉月は思った。
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