昔飼ってた犬がイケメン男子高校生になって会いにきた話
葉月は化粧室からベランダに移動した。
天気がよくて暑い日だったが、ここはいつも通り涼しくて居心地がよかった。
今日もベランダで黄昏ていると、後ろから誰かが来る気配がした。
後ろを振り返りながら、「月野さん」と葉月は言った。しかしそこにいたのは月野ではなく早坂だった。
「残念、俺でした」早坂はそう言って微笑んだ。
「えっ、早坂さん? 何でここに?」
葉月は、ここに来るのは自分と月野だけだと思っていたため、早坂が来たことが予想外で驚いた。
「今日は月野さん、大阪に出張だから当分は帰ってこないよ」
「そうなんですね……」
「月野さんがよかった?」
「いや、そんなことないです! 早坂さんが来るとは思ってなくて、ちょっとびっくりしただけです」葉月は焦りながら言った。
「ならよかった」早坂はそう言うと安心したように葉月の隣に来た。
(本当は月野さんに朱里さんのことを話そうと思ったんだけど、来ないなら仕方ない)
「今日はどうしたんですか? いつもは別の場所で休憩してますよね」
「うーん。長谷川さんに会いたくて来た」
「えっ?」
早坂はまた、葉月を惑わせるようなことを平気で言ってきた。
(早坂さんは天然なの? それともわざと?)
葉月が戸惑っていると、早坂が口を開く。
「なんてね。本当のことを言うとね、俺が今日ここに来た理由は、月野さんに頼まれたからなんだよ。もし長谷川さんがベランダにいるようだったら、声かけてやってくれって言われてさ」
「月野さんがですか?」
葉月は早坂が言ったことが信じられず、もう一度尋ねた。
「そうだよ」
「何でそんなことを早坂さんに頼んだんだろう」
「うーん……俺にもよく分からないけど、多分長谷川さんのことを普段から気にかけてるからじゃないかな。月野さんは日頃から俺に、長谷川さんのことをよく話してくるんだよ。妹みたいなやつだから、あいつは放っておけないって」
「妹みたいなやつ……」
葉月は咄嗟に、月野の実の妹である梓のことを思い出した。
もしかしたら月野は、梓と葉月を重ねているのかもしれない。そう思ったら、月野が今まで自分によくしてくれた理由がよくわかったような気がした。
「だから、今日は俺にその代役を頼んだのかもしれないね」
「そうだったんですね。あの月野さんが━━ちょっと意外でした」
月野が自分のことをそこまで気にかけてくれていたことを知り、葉月は素直に嬉しく思った。
こんなにいい人が本当に浮気なんてするだろうか。
しかし、まだ浮気をしていないと言う決定的な証拠はない。
これは朱里と月野の問題であって、関係のない葉月が介入すべきではないかもしれないけれど、葉月は真実が知りたかった。
知って、葉月も父と正々堂々と話し合いをするためのきっかけがほしかった。そのために葉月は月野と話す必要がある。それに朱里とも。
「それにしても、ここは涼しいね。冷たい風が吹いて気持ちいい」早坂は伸びをしながら言った。
「ですよね」
「長谷川さん、俺さ、月野さんのことすごい尊敬してるんだよ。人としても、男としても。月野さんは社内の営業成績がいつもトップで敵なしなのに、困ってる人を見ると放っておけなくて、助けようとする。そう言う背中を見て、いつか俺も月野さんみたいになろうって思ったんだ」
早坂はそう言うと照れたように葉月を見た。
「ごめんね、急にこんな話して。でも俺が今言ったことは本当だよ。だから、長谷川さんが俺に悩みを言わないことはわかってるけど、俺に何かできることがあれば何でも言ってほしい」
早坂の月野を尊敬する気持ちは素敵だ。それに自分のことを助けたいと思うその気持ちも有り難いし嬉しい。
でも早坂は月野の浮気を知らない。月野が浮気をしているとか、していないとかは置いといて、早坂がこの話を聞いたらどう思うだろう。
ここまで月野のことを信頼しているから、期待を裏切られた気持ちになるのだろうか。
「ありがとうございます」
葉月は早坂の目を見て微笑んだ。早坂はそんな葉月を何も言わず見惚れたように見ている。
「早坂さん?」突然何も言わなくなった早坂を不思議に思った葉月が呼んだ。
「長谷川さんの笑った顔って可愛いね。普段長谷川さんが笑うとこってそんなに見ないから、見れて嬉しい」
「またまたー。早坂さんって、何でそんな恥ずかしいことをすんなり言えちゃうんですか。私以外の女の子に言ったら、勘違いしちゃう子もいるかもしれないですよ」葉月は冗談交じりに言った。
「誰にでも言ってるわけじゃないんだけどな」早坂は困ったように言った。
「え? 何か言いました?」早坂が言ったことが聞き取れず葉月が言った。
そんな葉月に呆れたのか、「ううん。何でもないよ」と早坂は笑顔で言った。
月野と朱里について話せなかったことは残念だった。でもその代わりに、早坂と話したことで、月野が自分を妹のように思っていることを知ることができた。
そう思ってくれている人が社内にいるって、とても心強いことだな。
☆
天気がよくて暑い日だったが、ここはいつも通り涼しくて居心地がよかった。
今日もベランダで黄昏ていると、後ろから誰かが来る気配がした。
後ろを振り返りながら、「月野さん」と葉月は言った。しかしそこにいたのは月野ではなく早坂だった。
「残念、俺でした」早坂はそう言って微笑んだ。
「えっ、早坂さん? 何でここに?」
葉月は、ここに来るのは自分と月野だけだと思っていたため、早坂が来たことが予想外で驚いた。
「今日は月野さん、大阪に出張だから当分は帰ってこないよ」
「そうなんですね……」
「月野さんがよかった?」
「いや、そんなことないです! 早坂さんが来るとは思ってなくて、ちょっとびっくりしただけです」葉月は焦りながら言った。
「ならよかった」早坂はそう言うと安心したように葉月の隣に来た。
(本当は月野さんに朱里さんのことを話そうと思ったんだけど、来ないなら仕方ない)
「今日はどうしたんですか? いつもは別の場所で休憩してますよね」
「うーん。長谷川さんに会いたくて来た」
「えっ?」
早坂はまた、葉月を惑わせるようなことを平気で言ってきた。
(早坂さんは天然なの? それともわざと?)
葉月が戸惑っていると、早坂が口を開く。
「なんてね。本当のことを言うとね、俺が今日ここに来た理由は、月野さんに頼まれたからなんだよ。もし長谷川さんがベランダにいるようだったら、声かけてやってくれって言われてさ」
「月野さんがですか?」
葉月は早坂が言ったことが信じられず、もう一度尋ねた。
「そうだよ」
「何でそんなことを早坂さんに頼んだんだろう」
「うーん……俺にもよく分からないけど、多分長谷川さんのことを普段から気にかけてるからじゃないかな。月野さんは日頃から俺に、長谷川さんのことをよく話してくるんだよ。妹みたいなやつだから、あいつは放っておけないって」
「妹みたいなやつ……」
葉月は咄嗟に、月野の実の妹である梓のことを思い出した。
もしかしたら月野は、梓と葉月を重ねているのかもしれない。そう思ったら、月野が今まで自分によくしてくれた理由がよくわかったような気がした。
「だから、今日は俺にその代役を頼んだのかもしれないね」
「そうだったんですね。あの月野さんが━━ちょっと意外でした」
月野が自分のことをそこまで気にかけてくれていたことを知り、葉月は素直に嬉しく思った。
こんなにいい人が本当に浮気なんてするだろうか。
しかし、まだ浮気をしていないと言う決定的な証拠はない。
これは朱里と月野の問題であって、関係のない葉月が介入すべきではないかもしれないけれど、葉月は真実が知りたかった。
知って、葉月も父と正々堂々と話し合いをするためのきっかけがほしかった。そのために葉月は月野と話す必要がある。それに朱里とも。
「それにしても、ここは涼しいね。冷たい風が吹いて気持ちいい」早坂は伸びをしながら言った。
「ですよね」
「長谷川さん、俺さ、月野さんのことすごい尊敬してるんだよ。人としても、男としても。月野さんは社内の営業成績がいつもトップで敵なしなのに、困ってる人を見ると放っておけなくて、助けようとする。そう言う背中を見て、いつか俺も月野さんみたいになろうって思ったんだ」
早坂はそう言うと照れたように葉月を見た。
「ごめんね、急にこんな話して。でも俺が今言ったことは本当だよ。だから、長谷川さんが俺に悩みを言わないことはわかってるけど、俺に何かできることがあれば何でも言ってほしい」
早坂の月野を尊敬する気持ちは素敵だ。それに自分のことを助けたいと思うその気持ちも有り難いし嬉しい。
でも早坂は月野の浮気を知らない。月野が浮気をしているとか、していないとかは置いといて、早坂がこの話を聞いたらどう思うだろう。
ここまで月野のことを信頼しているから、期待を裏切られた気持ちになるのだろうか。
「ありがとうございます」
葉月は早坂の目を見て微笑んだ。早坂はそんな葉月を何も言わず見惚れたように見ている。
「早坂さん?」突然何も言わなくなった早坂を不思議に思った葉月が呼んだ。
「長谷川さんの笑った顔って可愛いね。普段長谷川さんが笑うとこってそんなに見ないから、見れて嬉しい」
「またまたー。早坂さんって、何でそんな恥ずかしいことをすんなり言えちゃうんですか。私以外の女の子に言ったら、勘違いしちゃう子もいるかもしれないですよ」葉月は冗談交じりに言った。
「誰にでも言ってるわけじゃないんだけどな」早坂は困ったように言った。
「え? 何か言いました?」早坂が言ったことが聞き取れず葉月が言った。
そんな葉月に呆れたのか、「ううん。何でもないよ」と早坂は笑顔で言った。
月野と朱里について話せなかったことは残念だった。でもその代わりに、早坂と話したことで、月野が自分を妹のように思っていることを知ることができた。
そう思ってくれている人が社内にいるって、とても心強いことだな。
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