昔飼ってた犬がイケメン男子高校生になって会いにきた話
「今日は入り口に制服を着た女の子が立ってた」用があって外に出ていた朱里が言った。

「女の子ですか?」不思議に思った葉月が朱里に訊いた。

「そうそう。最近は制服を着た子が会社の前にいることが多いね」

 女の子なら翔ではない。それに翔なら事前に連絡をするはずだ。

そう思った葉月は気にせず仕事を続けた。朱里もそれ以上は何も言わず、自分の席に座り仕事を始めた。

 仕事をしていると、葉月は分からないことが見つかり、朱里に訊くことにした。

「朱里さん、ここどうすればいいですか?」葉月がパソコンに目をやりながら隣にいる朱里に尋ねた。

 しかし朱里は答えなかった。

質問に答えない朱里を訝しく思って見ると、朱里の作業をする手がいつの間にか止まっていて、物思いに耽ったような顔をしていた。

「朱里さん、どうしたんですか?」

「え?」

「さっき質問したんですけど、朱里さん上の空みたいだから」

「ああ、ごめんごめん。何?」

 朱里はすぐに葉月の質問に応じた。

「こうやってやれば大丈夫だから、やってみて」朱里はそう言うと、悲しそうな顔を葉月に向けた。

「はい、やってみます……ところで朱里さん、またタケルさんと何かあったんですか?」

「分かる?」

「分かりますよ。朱里さんが元気なさそうな時って、大体タケルさんと何かあった時だから」

「まあ、そうだね」

「また喧嘩でもしたんですか?」

「うん。実は、最近タケルが浮気してないか無性に気になって、勝手にスマホの中を見ちゃったんだ。でもそれがタケルにバレて、言い合いになった……」

 朱里の月野に対するトラウマは未だに継続されているようだ。やはりこのまま見過ごすのはよくない。

「前はそんなこと一度もしたことなかったよ。でも、あれから浮気をされるのが怖くなって」

「それで、タケルさんが浮気してたかどうか、スマホを見てわかったんですか?」

「ラインの履歴を見たけど、私が見た限りでは浮気はしてなかった」

「よかったですね」

「でも、それでも不安なの。タケルに直接訊いても、スマホの中身を見ても」

 どうやら朱里の抱えているトラウマは相当なものらしい。

「この浮気を疑っちゃう癖、どうにかできないかな」朱里は困った顔で言った。

 本来葉月の知っている朱里はもっと自信に満ち溢れていて、浮気なんて気にする人ではないはずだ。朱里にはこれから月野との問題に向き合ってもらいたい。そして元の自信に満ちた朱里に戻ってほしい。

だからいつもお世話になっている朱里のために、自分が今できることは精一杯したい。

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