昔飼ってた犬がイケメン男子高校生になって会いにきた話
第一章 謎の男子高校生との出会い
「入り口に制服を着た男の子が立ってた」
外に出ていた先輩・佐藤朱里が会社に戻ってきた途端、興奮気味に言った。
「誰かを待っているようだったけど。うちの会社の家族かな」
朱里は不思議そうに首を傾げた。葉月は一人っ子と言うこともあり、兄弟なんているはずもなく、きっと朱里の言う通り、誰かの家族か何かだろうと思った。
それにしても、学生が会社の前にいたところで一体何だと言うんだろう。この辺りはビジネス街だし学生がいるのは少し珍しいかもしれない。でも学生なんて探せばどこにでもいるではないか。
「それがどうかしたんですか?」
葉月は気倦げに朱里に尋ねた。
「うふふ、可愛い子だった」
朱里の顔はうっとりしていた。興奮していた原因はそれか、と葉月は理解した。
片手を頬にあて、熱を冷ますようにしながら、朱里は葉月の隣にある自分の席に座った。
今年で三年目の朱里は、美人で後輩の面倒見がいい。色事が大好きな割に、独身で彼氏もいない。これが世に言う、宝の持ち腐れと言うものなのか。
「それはそうと、もうすぐ父の日だね。葉月は、お父さんに何かプレゼントする予定あるの?」
「……わからないです」
葉月は机上にある六月の卓上カレンダーを見て言った。
「そっか。まあ、葉月の実家は遠いもんね。私なんかは実家と家が近いし、あげないとって謎の使命感に駆られちゃって、毎年この日が来ると何をあげようか迷うから、ちょっと面倒くさいんだよね。だから葉月が羨ましい」
「ハハ。そうなんですね」愛想笑いをしながら、葉月は答える。そして内心どうでもいいと思ってしまう自分をどこかに追いやった。
「葉月だったら、お父さんに何をあげたらいいと思う?」
それは葉月にとって回答に困る質問だった。葉月が最後、父の日にプレゼントをしたのは、高校生の時だ。それ以来一度も父の日にプレゼントはあげていない。
回答に困って無言でいると、朱里がスマートフォンで何かを見せて来た。
「私これにしようかなって思ってるんだけど、どう思う?」
何だ、迷っているものがあるなら最初から見せてくれたらよかったのに。そう思いながら朱里のスマートフォンの画面を見た。
画面に映っていたのは、名前入りの眼鏡ケースだった。一見、それほど高価な物ではなさそうだったが、本革が使用されていて、素材が柔らかいらしく、使い勝手のよさそうな物だった。
「いいんじゃないですか。使いやすそうですし、名前入りならオリジナル感も出ますね。お父さん喜ぶと思いますよ」
「本当? よかった。他にもあるんだけど」
そう言うと朱里は、別のプレゼント候補の写真を何枚か葉月に見せた。
「私のお父さん、何か欲しい物あるかって聞いても、別に何もいらないって言うんだよね。だから何をあげていいか本当に分からなくて」
「私は、最初に見せてくれた物の方がいいと思います」
「そうかな? 何でそう思うの?」
「名前入りだからです。他のプレゼントには名前入りの物なかったじゃないですか」
「まあ、そうだね」
「私は名前が入った物って、見ると嬉しくなると思うんですよね。何かこう、世界で一つだけの宝物って言う感じがして」
「葉月は昔、何か名前入りの物をもらったことがあるの?」
「いや、ないですけど」
「ないんかーい!」
朱里から鋭いツッコミが入った。
「でも、参考にさせてもらう」
朱里はその後、プレゼントと睨めっこをしていた。
父の日にプレゼントか━━自分には関係のないことだけど、なぜか心が落ち着かない。
「あ、それと葉月、今日はもう上がっていいよ」
「あ、はい」
今年入社してまだ一年目の葉月は、早く帰れることに胸が躍った。仕事は相変わらずまだ慣れないことも多いけど、朱里がフォローしてくれたり、やりがいを感じることもあったりで何とか楽しくやっていけている。
今日は久しぶりの定時上がりだ。夕飯はどうしようかな。
☆
外に出ていた先輩・佐藤朱里が会社に戻ってきた途端、興奮気味に言った。
「誰かを待っているようだったけど。うちの会社の家族かな」
朱里は不思議そうに首を傾げた。葉月は一人っ子と言うこともあり、兄弟なんているはずもなく、きっと朱里の言う通り、誰かの家族か何かだろうと思った。
それにしても、学生が会社の前にいたところで一体何だと言うんだろう。この辺りはビジネス街だし学生がいるのは少し珍しいかもしれない。でも学生なんて探せばどこにでもいるではないか。
「それがどうかしたんですか?」
葉月は気倦げに朱里に尋ねた。
「うふふ、可愛い子だった」
朱里の顔はうっとりしていた。興奮していた原因はそれか、と葉月は理解した。
片手を頬にあて、熱を冷ますようにしながら、朱里は葉月の隣にある自分の席に座った。
今年で三年目の朱里は、美人で後輩の面倒見がいい。色事が大好きな割に、独身で彼氏もいない。これが世に言う、宝の持ち腐れと言うものなのか。
「それはそうと、もうすぐ父の日だね。葉月は、お父さんに何かプレゼントする予定あるの?」
「……わからないです」
葉月は机上にある六月の卓上カレンダーを見て言った。
「そっか。まあ、葉月の実家は遠いもんね。私なんかは実家と家が近いし、あげないとって謎の使命感に駆られちゃって、毎年この日が来ると何をあげようか迷うから、ちょっと面倒くさいんだよね。だから葉月が羨ましい」
「ハハ。そうなんですね」愛想笑いをしながら、葉月は答える。そして内心どうでもいいと思ってしまう自分をどこかに追いやった。
「葉月だったら、お父さんに何をあげたらいいと思う?」
それは葉月にとって回答に困る質問だった。葉月が最後、父の日にプレゼントをしたのは、高校生の時だ。それ以来一度も父の日にプレゼントはあげていない。
回答に困って無言でいると、朱里がスマートフォンで何かを見せて来た。
「私これにしようかなって思ってるんだけど、どう思う?」
何だ、迷っているものがあるなら最初から見せてくれたらよかったのに。そう思いながら朱里のスマートフォンの画面を見た。
画面に映っていたのは、名前入りの眼鏡ケースだった。一見、それほど高価な物ではなさそうだったが、本革が使用されていて、素材が柔らかいらしく、使い勝手のよさそうな物だった。
「いいんじゃないですか。使いやすそうですし、名前入りならオリジナル感も出ますね。お父さん喜ぶと思いますよ」
「本当? よかった。他にもあるんだけど」
そう言うと朱里は、別のプレゼント候補の写真を何枚か葉月に見せた。
「私のお父さん、何か欲しい物あるかって聞いても、別に何もいらないって言うんだよね。だから何をあげていいか本当に分からなくて」
「私は、最初に見せてくれた物の方がいいと思います」
「そうかな? 何でそう思うの?」
「名前入りだからです。他のプレゼントには名前入りの物なかったじゃないですか」
「まあ、そうだね」
「私は名前が入った物って、見ると嬉しくなると思うんですよね。何かこう、世界で一つだけの宝物って言う感じがして」
「葉月は昔、何か名前入りの物をもらったことがあるの?」
「いや、ないですけど」
「ないんかーい!」
朱里から鋭いツッコミが入った。
「でも、参考にさせてもらう」
朱里はその後、プレゼントと睨めっこをしていた。
父の日にプレゼントか━━自分には関係のないことだけど、なぜか心が落ち着かない。
「あ、それと葉月、今日はもう上がっていいよ」
「あ、はい」
今年入社してまだ一年目の葉月は、早く帰れることに胸が躍った。仕事は相変わらずまだ慣れないことも多いけど、朱里がフォローしてくれたり、やりがいを感じることもあったりで何とか楽しくやっていけている。
今日は久しぶりの定時上がりだ。夕飯はどうしようかな。
☆