昔飼ってた犬がイケメン男子高校生になって会いにきた話
約束していた金曜の夜、葉月は早坂とフレンチトーストが美味しいと評判だと言う店で楽しく食事をし、そろそろいい時間だと言うことで、家に帰ることになった。
「すごい美味しかったです。誘ってくれてありがとうございました」葉月は店の前で早坂にお礼を言った。
「俺の方こそありがとう。一緒に行けてよかったよ。また美味しいお店見つけたら誘うね」早坂はいつもの笑顔で言った。
葉月が返事をしようとすると、「あれ、葉月さん?」と誰かが自分を呼ぶ声がした。
なんだか聞き慣れた声だ。
「やっぱり、葉月さんだ」
声がする方を見ると、翔と蓮見がいた。
「奇遇ですね」
「翔……! こんなところで会うなんてびっくり。今日は蓮見ちゃんと一緒なんだ」
「はい。さっき別の友達もいて、何人かで飯食ってたんですよ。これから蓮見を家まで送るところです」
ふと蓮見を見ると、葉月のことを警戒しているように見えた。
無理もない。蓮見から見て葉月は、翔を誑かしている女にしか見えないのだから。
「翔くん、もう行こうよ」
「え? もう?」
翔はまだ葉月と話したそうにしていて、その場を動こうとしない。
しかし蓮見は葉月と話しているところを見るのが嫌なのか、翔の腕を少し強引に引っ張っていた。
「知り合い?」早坂が葉月に尋ねた。
「あ、はい。友達って言うか、なんて言うか……」
葉月が言葉を濁しながら言うと、早坂は「そうなんだ。初めまして。長谷川さんと同じ会社で働いている早坂って言います」と、翔と蓮見を見て言った。
「翔です。初めまして。葉月さんが言ってた会社の人って、早坂さんのことだったんですね。フレンチトースト食べるって言ってたから、てっきり女の人だと思ってた」
「ハハ、そうだったんだ。ここのフレンチトースト美味しいよ。今度食べてみて」
「はい」
「ところで、二人は付き合ってるの?」
今まで翔の腕を引っ張っていた蓮見は手を止めた。
早坂の質問に対して、翔がどんな反応をするのか気になっているように見える。
「いや、違います。友達ですよ」
すると、はっきりと違うと言われたことがショックなのか、蓮見は悲しそうな顔をした。
「そうなんだ。てっきり付き合ってるのかと思った。すごくお似合いだったから」
蓮見は早坂にお似合いと言われ、先程の悲しそうな顔が嘘のように、今度は嬉しそうな顔になった。
見ていてわかりやすい子だと葉月は思った。
その後もしばらく話した後、早坂が「長谷川さん、もう夜遅いから家まで送ろうか?」と言った。
「大丈夫です。家までそんなに遠くないので」
早坂に家まで送ってもらうのが申し訳なく思い、葉月は断った。
「俺が送ります」突然、翔が言った。
「え? 翔くん、私を家まで送る約束でしょ?」蓮見が戸惑ったように翔に訊いた。
「そうだった。ごめん、つい」まるで翔は蓮見の存在を忘れていたかのように言った。
翔が蓮見の存在を軽視していると思ったのか、蓮見は急に不機嫌そうになった。
「じゃあ俺の家こっち方面だから、またね」早坂は葉月とは逆方向の道へ歩いて行った。
葉月も帰ろうとすると、蓮見が葉月の元へ来た。そして耳元で、「私、葉月さんには負けませんから」と葉月だけに聞こえるように囁いた。
突然の蓮見の宣言に、葉月は呆気にとられた。翔はその様子を見て、何だかよくわからないと言うような顔をしている。
やはり思った通りだった。どうやら蓮見は翔のことが好きらしい。
再び蓮見が翔の元へ戻ると、「何の話してたんだ?」と翔が蓮見に訊いた。
「別に何でもないよ」
蓮見の返事を聞いて、翔は納得がいかないようだったが、「葉月さん、気をつけて帰ってくださいね。また連絡しますから」と言った。
翔は葉月を気にしながらも、仕方なく蓮見を見送って行った。
負けませんからと言われても、翔を巡って争うつもりは別にないんだけどな。
前にも言ったつもりだったが、蓮見は聞く耳を持たない。
葉月は仕方なく蓮見の言ったことを聞き流すことに決めた。
一人になった葉月は、家までの道を朗らかに歩いた。
(今日はいい日だったなー)
家に帰ってソファに座ると、突然、鞄の中のスマートフォンが震えた。
何だろうと思いながら、葉月はスマートフォンを鞄の中から取り出した。
画面を確認すると、母から電話がかかっているのがわかり、すぐに葉月は電話に出た。
「はーい」
「葉月、お父さんが……」
母の声は震えている。
「どうしたの? 何かあったの?」葉月は母に尋ねた。
嫌な予感がする。
葉月は息を詰めながら母が話すのを待った。
「お父さんが勤務先の大学で倒れて、病院に搬送されたって、大学の先生から電話があったの」
葉月は母の言っていることが信じられず、「……それ本当?」と訊いた。
「本当だよ」
ドッキリか何かであってほしいと思ったが、どうやら無理なようだ。
今まで気分よく過ごしていた葉月だったが、父が倒れたことを母から知らされ、一気に焦るような気持ちになった。
「何で倒れたの?」
「聞いた話によると、くも膜下出血って言う病気になって、倒れたらしい」
「くも膜下出血……」
病名は聞いたことがあったが、どのような症状の病気なのか、葉月には詳しいことは何もわからなかった。
「それは、助かる病気なの?」
「わからないよ。とりあえず、これから車で病院に向かう」
電話の向こうで、母は何とか冷静を保とうとしているのがわかった。
「葉月、お願い。明日でいいから、山梨に帰って来てくれない? お父さんも葉月が帰って来ると知ったら、きっと喜ぶと思う」
葉月が返事をしぶっていると、母が「喧嘩して口も利いてないことはわかってるけど、お父さんの一大事なんだよ? 来てくれるよね?」
返事を迫られた葉月は、母の必死なお願いを聞いて断るわけにもいかず、「わかった」と言った。
「じゃあ待ってるから。気をつけて帰って来てね」母はそう言うと電話を切った。
連休に帰る予定が、思わぬ悲報により、早く帰らなければならないことになった。
父は大丈夫なのだろうか。
とてつもない不安に襲われそうになるのを何とか堪えながら、葉月は明日に備えて早く寝ることにした。
「すごい美味しかったです。誘ってくれてありがとうございました」葉月は店の前で早坂にお礼を言った。
「俺の方こそありがとう。一緒に行けてよかったよ。また美味しいお店見つけたら誘うね」早坂はいつもの笑顔で言った。
葉月が返事をしようとすると、「あれ、葉月さん?」と誰かが自分を呼ぶ声がした。
なんだか聞き慣れた声だ。
「やっぱり、葉月さんだ」
声がする方を見ると、翔と蓮見がいた。
「奇遇ですね」
「翔……! こんなところで会うなんてびっくり。今日は蓮見ちゃんと一緒なんだ」
「はい。さっき別の友達もいて、何人かで飯食ってたんですよ。これから蓮見を家まで送るところです」
ふと蓮見を見ると、葉月のことを警戒しているように見えた。
無理もない。蓮見から見て葉月は、翔を誑かしている女にしか見えないのだから。
「翔くん、もう行こうよ」
「え? もう?」
翔はまだ葉月と話したそうにしていて、その場を動こうとしない。
しかし蓮見は葉月と話しているところを見るのが嫌なのか、翔の腕を少し強引に引っ張っていた。
「知り合い?」早坂が葉月に尋ねた。
「あ、はい。友達って言うか、なんて言うか……」
葉月が言葉を濁しながら言うと、早坂は「そうなんだ。初めまして。長谷川さんと同じ会社で働いている早坂って言います」と、翔と蓮見を見て言った。
「翔です。初めまして。葉月さんが言ってた会社の人って、早坂さんのことだったんですね。フレンチトースト食べるって言ってたから、てっきり女の人だと思ってた」
「ハハ、そうだったんだ。ここのフレンチトースト美味しいよ。今度食べてみて」
「はい」
「ところで、二人は付き合ってるの?」
今まで翔の腕を引っ張っていた蓮見は手を止めた。
早坂の質問に対して、翔がどんな反応をするのか気になっているように見える。
「いや、違います。友達ですよ」
すると、はっきりと違うと言われたことがショックなのか、蓮見は悲しそうな顔をした。
「そうなんだ。てっきり付き合ってるのかと思った。すごくお似合いだったから」
蓮見は早坂にお似合いと言われ、先程の悲しそうな顔が嘘のように、今度は嬉しそうな顔になった。
見ていてわかりやすい子だと葉月は思った。
その後もしばらく話した後、早坂が「長谷川さん、もう夜遅いから家まで送ろうか?」と言った。
「大丈夫です。家までそんなに遠くないので」
早坂に家まで送ってもらうのが申し訳なく思い、葉月は断った。
「俺が送ります」突然、翔が言った。
「え? 翔くん、私を家まで送る約束でしょ?」蓮見が戸惑ったように翔に訊いた。
「そうだった。ごめん、つい」まるで翔は蓮見の存在を忘れていたかのように言った。
翔が蓮見の存在を軽視していると思ったのか、蓮見は急に不機嫌そうになった。
「じゃあ俺の家こっち方面だから、またね」早坂は葉月とは逆方向の道へ歩いて行った。
葉月も帰ろうとすると、蓮見が葉月の元へ来た。そして耳元で、「私、葉月さんには負けませんから」と葉月だけに聞こえるように囁いた。
突然の蓮見の宣言に、葉月は呆気にとられた。翔はその様子を見て、何だかよくわからないと言うような顔をしている。
やはり思った通りだった。どうやら蓮見は翔のことが好きらしい。
再び蓮見が翔の元へ戻ると、「何の話してたんだ?」と翔が蓮見に訊いた。
「別に何でもないよ」
蓮見の返事を聞いて、翔は納得がいかないようだったが、「葉月さん、気をつけて帰ってくださいね。また連絡しますから」と言った。
翔は葉月を気にしながらも、仕方なく蓮見を見送って行った。
負けませんからと言われても、翔を巡って争うつもりは別にないんだけどな。
前にも言ったつもりだったが、蓮見は聞く耳を持たない。
葉月は仕方なく蓮見の言ったことを聞き流すことに決めた。
一人になった葉月は、家までの道を朗らかに歩いた。
(今日はいい日だったなー)
家に帰ってソファに座ると、突然、鞄の中のスマートフォンが震えた。
何だろうと思いながら、葉月はスマートフォンを鞄の中から取り出した。
画面を確認すると、母から電話がかかっているのがわかり、すぐに葉月は電話に出た。
「はーい」
「葉月、お父さんが……」
母の声は震えている。
「どうしたの? 何かあったの?」葉月は母に尋ねた。
嫌な予感がする。
葉月は息を詰めながら母が話すのを待った。
「お父さんが勤務先の大学で倒れて、病院に搬送されたって、大学の先生から電話があったの」
葉月は母の言っていることが信じられず、「……それ本当?」と訊いた。
「本当だよ」
ドッキリか何かであってほしいと思ったが、どうやら無理なようだ。
今まで気分よく過ごしていた葉月だったが、父が倒れたことを母から知らされ、一気に焦るような気持ちになった。
「何で倒れたの?」
「聞いた話によると、くも膜下出血って言う病気になって、倒れたらしい」
「くも膜下出血……」
病名は聞いたことがあったが、どのような症状の病気なのか、葉月には詳しいことは何もわからなかった。
「それは、助かる病気なの?」
「わからないよ。とりあえず、これから車で病院に向かう」
電話の向こうで、母は何とか冷静を保とうとしているのがわかった。
「葉月、お願い。明日でいいから、山梨に帰って来てくれない? お父さんも葉月が帰って来ると知ったら、きっと喜ぶと思う」
葉月が返事をしぶっていると、母が「喧嘩して口も利いてないことはわかってるけど、お父さんの一大事なんだよ? 来てくれるよね?」
返事を迫られた葉月は、母の必死なお願いを聞いて断るわけにもいかず、「わかった」と言った。
「じゃあ待ってるから。気をつけて帰って来てね」母はそう言うと電話を切った。
連休に帰る予定が、思わぬ悲報により、早く帰らなければならないことになった。
父は大丈夫なのだろうか。
とてつもない不安に襲われそうになるのを何とか堪えながら、葉月は明日に備えて早く寝ることにした。