昔飼ってた犬がイケメン男子高校生になって会いにきた話
静けさが漂う会社のベランダ。
相変わらず風は吹いているが、十月下旬となれば異常気象と言えども、さすがに風が吹くと少し肌寒い。
寒さをしのぐために前もってカーディガンを着てきた葉月は、会社の前の道路で歩く人々をベランダからぼんやりと眺めていた。
「ちょっと長谷川、聞いてー!」
いきなり登場してきた月野は何かを聞いてほしそうにしながら、葉月に向かって大きな声で話しかけた。
「どうしたんですか?」
「これ見てくれよ」月野はそう言うと、自分の着ているワイシャツの裾を捲り上げた。
葉月は「きゃっ」と言う叫び声を上げると同時に、顔を両手で覆った。
「ちょっ、何見せてるんですか⁉︎」
そうは言いつつも、指の間からはしっかりと月野のことを見ていた。
「違うって。お腹見て」
月野に言われてお腹をよく見ると、「あっ! 腹筋が浮き出てる」と葉月は言った。
「そうなんだよ。あれからジムに行く回数を増やしたらこうなった」
続けて目を凝らすと、月野のお腹にうっすらとシックスパックができているのがわかり、「すごーい。成果ちゃんと出てますね!」と葉月は感心しながら言った。
「だろー? 最初はストレス発散のために行ってたけど、今は考えが変わって、人に見せても恥ずかしくない体を作りたくて行ってるんだよ」
「へー。このままだと月野さん、いずれ筋肉ムキムキになっちゃうかもしれないですね」葉月は楽しそうに言った。
「まあでも、まだまだこれからだよ。あ、朱里も来週から俺と同じジムに通うらしい」そう言うと、月野は捲り上げていたワイシャツを元に戻した。
「朱里さんもですか? そう言えば、月野さん。朱里さんから聞きましたよ。より戻したらしいですね」
「なんだ、もう聞いたのかよ」
葉月はにやけ顔になると、「月野さーん。人に見せるために恥ずかしくない体を作りたいとか言いつつ、本当は朱里さんのためだけに、いい体を作ろうとしてるんじゃないですか?」と月野を冷やかした。
月野は顔を赤くして、「うるせえよ」と言った。
そんな月野を見た葉月は「あはは」と高らかに笑った。
手に持っていた缶コーヒーを飲みながら、「ところで、長谷川はどうなんだよ? 早坂とかあの高校生とか」と月野が言った。
「えっ……」
あからさまに動揺した葉月を見て、「さては何かあったな?」と月野が不敵な笑みを浮かべて言った。
図星を指された葉月は黙り込んだ。
「長谷川のことだし、最初からそれを話しにここに来たんだろ? 勿体ぶってないで、早く話聞かせろよ」
月野には何でもお見通しのようだ。
「もう、月野さんには敵わないな」葉月はそう言った後、早坂と翔について、月野に詳しく話した。
全てを話し終えると、「で、どっちが好きなんだ?」と月野が朱里と同様に訊いてきた。
「どっちって言われても、答えられないですよ」
「まだどっちも好きじゃないってこと? それならとりあえずデートしてみて、二人のうちよかったって思った方と付き合えば?」
「そんな選ぶようなこと、私にはできませんー」
「何言ってんだよ。俺よりもまだ若いんだから、もっと積極的に恋愛しろよ」と月野が葉月を鼓舞すると、「はあ……」と葉月は覇気のない返事をした。
「長谷川はその高校生のこと、どう思ってるんだ? 前は弟みたいとか言ってたけど」
「いつからだったか覚えてないんですけど、かなり前から弟のように思えなくなったんですよ。だから今は……頼れる友達みたいな感じに思ってます」
「何だそれ。でも、その高校生の告白をすぐに断らなかったってことは、少なくとも付き合う気が全くないわけではないんだよな」
「私にもよくわからないんですけど、考えるより先に口が動いちゃってたんですよね」
そうだ。あの時はなぜああ言ったのか自分でもよくわからなかったんだ。
後で悩んで困ることになるとわかっておきながら、どうして自分はすぐに断らなかったんだろう。
「ふーん。その高校生のことはよくわからないけど、俺は早坂のこといいと思うよ。だってあいつ、俺と一緒でイケメンだしモテるし」
自分で言うのかと突っ込みを入れたくなったが、また同じようなことを言われそうだと思った葉月はあえて言わなかった。
翔に恋愛感情があるかどうかと言われたら、正直なところ今はない。でも告白を断ることにはなぜか抵抗がある。
自分でもよくわからないこの気持ちをどうにかしたい。そう思った葉月は月野が言っていた『とりあえずデートをしてみる』を参考にしようと決めた。
「月野さん、私やっぱり思い切って二人とデートしてきます」
「急にどうしたんだよ。ついさっきまで、私には選ぶようなことはできませんとか言ってたのに」
「このままだと埒が明かないから、月野さんの言う通りにしてみようと思ったんですよ」
「おお、その意気だ。長谷川」
月野にハッパをかけられたお陰で、今まで頭を悩ませていた出来事が前進した気がした。
今回の二人とのデートで自分の気持ちがはっきりしたらいいな。
☆
相変わらず風は吹いているが、十月下旬となれば異常気象と言えども、さすがに風が吹くと少し肌寒い。
寒さをしのぐために前もってカーディガンを着てきた葉月は、会社の前の道路で歩く人々をベランダからぼんやりと眺めていた。
「ちょっと長谷川、聞いてー!」
いきなり登場してきた月野は何かを聞いてほしそうにしながら、葉月に向かって大きな声で話しかけた。
「どうしたんですか?」
「これ見てくれよ」月野はそう言うと、自分の着ているワイシャツの裾を捲り上げた。
葉月は「きゃっ」と言う叫び声を上げると同時に、顔を両手で覆った。
「ちょっ、何見せてるんですか⁉︎」
そうは言いつつも、指の間からはしっかりと月野のことを見ていた。
「違うって。お腹見て」
月野に言われてお腹をよく見ると、「あっ! 腹筋が浮き出てる」と葉月は言った。
「そうなんだよ。あれからジムに行く回数を増やしたらこうなった」
続けて目を凝らすと、月野のお腹にうっすらとシックスパックができているのがわかり、「すごーい。成果ちゃんと出てますね!」と葉月は感心しながら言った。
「だろー? 最初はストレス発散のために行ってたけど、今は考えが変わって、人に見せても恥ずかしくない体を作りたくて行ってるんだよ」
「へー。このままだと月野さん、いずれ筋肉ムキムキになっちゃうかもしれないですね」葉月は楽しそうに言った。
「まあでも、まだまだこれからだよ。あ、朱里も来週から俺と同じジムに通うらしい」そう言うと、月野は捲り上げていたワイシャツを元に戻した。
「朱里さんもですか? そう言えば、月野さん。朱里さんから聞きましたよ。より戻したらしいですね」
「なんだ、もう聞いたのかよ」
葉月はにやけ顔になると、「月野さーん。人に見せるために恥ずかしくない体を作りたいとか言いつつ、本当は朱里さんのためだけに、いい体を作ろうとしてるんじゃないですか?」と月野を冷やかした。
月野は顔を赤くして、「うるせえよ」と言った。
そんな月野を見た葉月は「あはは」と高らかに笑った。
手に持っていた缶コーヒーを飲みながら、「ところで、長谷川はどうなんだよ? 早坂とかあの高校生とか」と月野が言った。
「えっ……」
あからさまに動揺した葉月を見て、「さては何かあったな?」と月野が不敵な笑みを浮かべて言った。
図星を指された葉月は黙り込んだ。
「長谷川のことだし、最初からそれを話しにここに来たんだろ? 勿体ぶってないで、早く話聞かせろよ」
月野には何でもお見通しのようだ。
「もう、月野さんには敵わないな」葉月はそう言った後、早坂と翔について、月野に詳しく話した。
全てを話し終えると、「で、どっちが好きなんだ?」と月野が朱里と同様に訊いてきた。
「どっちって言われても、答えられないですよ」
「まだどっちも好きじゃないってこと? それならとりあえずデートしてみて、二人のうちよかったって思った方と付き合えば?」
「そんな選ぶようなこと、私にはできませんー」
「何言ってんだよ。俺よりもまだ若いんだから、もっと積極的に恋愛しろよ」と月野が葉月を鼓舞すると、「はあ……」と葉月は覇気のない返事をした。
「長谷川はその高校生のこと、どう思ってるんだ? 前は弟みたいとか言ってたけど」
「いつからだったか覚えてないんですけど、かなり前から弟のように思えなくなったんですよ。だから今は……頼れる友達みたいな感じに思ってます」
「何だそれ。でも、その高校生の告白をすぐに断らなかったってことは、少なくとも付き合う気が全くないわけではないんだよな」
「私にもよくわからないんですけど、考えるより先に口が動いちゃってたんですよね」
そうだ。あの時はなぜああ言ったのか自分でもよくわからなかったんだ。
後で悩んで困ることになるとわかっておきながら、どうして自分はすぐに断らなかったんだろう。
「ふーん。その高校生のことはよくわからないけど、俺は早坂のこといいと思うよ。だってあいつ、俺と一緒でイケメンだしモテるし」
自分で言うのかと突っ込みを入れたくなったが、また同じようなことを言われそうだと思った葉月はあえて言わなかった。
翔に恋愛感情があるかどうかと言われたら、正直なところ今はない。でも告白を断ることにはなぜか抵抗がある。
自分でもよくわからないこの気持ちをどうにかしたい。そう思った葉月は月野が言っていた『とりあえずデートをしてみる』を参考にしようと決めた。
「月野さん、私やっぱり思い切って二人とデートしてきます」
「急にどうしたんだよ。ついさっきまで、私には選ぶようなことはできませんとか言ってたのに」
「このままだと埒が明かないから、月野さんの言う通りにしてみようと思ったんですよ」
「おお、その意気だ。長谷川」
月野にハッパをかけられたお陰で、今まで頭を悩ませていた出来事が前進した気がした。
今回の二人とのデートで自分の気持ちがはっきりしたらいいな。
☆