昔飼ってた犬がイケメン男子高校生になって会いにきた話
あっという間にやってきた土曜日。葉月は早坂との約束通り、フレンチトーストのお店に早坂と来ていた。
今は注文したフレンチトーストが来るのを待っている最中だ。
休日に早坂と二人だけで会うのは初めてと言うこともあって、葉月はいつもより緊張していた。
普段見せない私服を見られるのも何だか恥ずかしかったし、どう思われているかわからない不安もある。
そんな自分に対して早坂を見たら、全然緊張しているようには見えなかった。それに早坂の着ている私服は、青いシャツに白いテーパードパンツと言った清潔感のある服装で、スマートで大人な印象に見えた。
あまりデートに慣れていない葉月は、余裕のありそうな早坂を見て、余計に不安になった。
しかしそれらの感情は全て、早坂のある行動によって覆されることになるとは、この時はまだ思いもしなかった。
「早坂さん……そろそろ食べませんか?」
葉月は注文したフレンチトーストが来ても食べようとせずに、一眼レフカメラでお店の中やフレンチトーストの写真を撮っている早坂に向かって言った。
早坂は一度手を止めて、「あ、ごめん。よかったら先に食べてて」と葉月を見て言うと、すぐにまた写真を撮り始めた。
「そんなに写真撮ってどうするんですか?」呆れた顔で葉月が言った。
「インスタに載せようと思って」
「インスタ……」
前もどこかでこんなことがあったなと葉月は思い出した。そして写真を撮ることに夢中になっている早坂を見ていると、さっきまでの緊張がまるで嘘のように、気持ちが楽になっていった。
安心した葉月は早坂を置いて先に食べることにした。
間もなくして、早坂は満足したのか写真を撮り終えると、カメラを置いてようやくフレンチトーストを食べ始めた。
「美味しいね。来てよかった」
「ですね」葉月は笑顔で言った。
そんな葉月を見た早坂は「長谷川さん、何か変わったね。前と違って明るくなった気がする」と言った。
「え、そうですか?」
「うん。それに何か垢抜けたって言うか、前より可愛くなったよね。今日の服も似合っててすごく可愛いよ」
葉月は早坂に褒められ、途端に恥ずかしくなって顔を赤くした。
どう思われるかなんて、余計な心配をして損したかもしれない。
以前よりも明るくなったのは、きっと父と仲直りしたことがきっかけだろう。改めて葉月は父と仲直りできてよかったと心から思った。
「早坂さんがカメラを好きになったのって、確か学生の時からなんですよね?」
「そうだよ。あの時は純粋に撮ることだけが楽しくて、自己満足みたいな感じだったけど、今は違って、人が喜ぶ顔を想像して撮ってるんだ」
「そうなんですね。何かそれ、上手く言えないけどすごくいいと思います」
「ありがとう。だから休日になるとつい、写真を撮らないと気が済まなくなっちゃって━━さっきはごめんね。せっかく長谷川さんと一緒にいるのに」
それであんなに熱心に写真を撮っていたのかと葉月は納得した。
「気にしないでください。そう言うことなら私むしろ、もっと撮ってほしいです」
「え? 長谷川さんのこと撮ってもいいの?」
早坂の目が急に輝いた。
自分を撮ってほしいなんて一言も言っていないのに、何を勘違いしているのだろう。
「えっ、いや、そう言うことじゃなくて、景色とか物とか……」
「嬉しい。じゃあ、これからは長谷川さんのことを撮ることにするね」
どうやら、葉月の言っていることが耳に入らないほど喜んでいるようだ。そんな張り切っている早坂のことを考えると、否定するのも悪い気がして、葉月は仕方なく受け入れることにした。
もしここにいるのが翔だったら━━いけない、今は早坂とのデート中なのに、そんなことを考えたら早坂に失礼だ。
葉月は反省しつつも、気を取り直して早坂との会話を楽しむことにした。
パンケーキを食べ終えて店を出た後は、雑貨屋や花屋に行ったり、早坂が行きたいと言っていた写真美術館で鑑賞を楽しんだりした。
そして早坂の言葉通り、時々チャンスを狙ってきては、早坂は葉月の写真を撮っていた。
途中、広場にあった噴水の前で早坂が写真を撮りたいと言うため、二人は立ち止まった。
「長谷川さん、こっち向いてー!」
仕方なくではあったが、葉月は指示に従って早坂の方を向いた。
早坂はシャッターを切ると、「いい写真撮れたよ! ありがとう」と満足そうに言った。
葉月は苦笑しながら、「よかったです」と言った。
すると、目の前にいた高校生くらいに見えるカップルが、「すみませーん。よかったら写真撮ってもらえませんか?」と葉月と早坂にお願いしてきた。
早坂は快く「いいよー」と言うと、そのカップルの男の子からスマートフォンを受け取り、写真を撮り始めた。
その二人をぼんやり見ていると、なぜか翔のことが頭に思い浮かんだ。
翔は今頃何をしているんだろう。会いたいな。
(ん……?)
次の瞬間、葉月はハッとした。
また翔のことを考えてしまった。気づくと翔のことばかり今日は考えている。
もしかして、自分は翔のことが好きなのだろうか。
そう思うと頬が段々熱くなり、顔が赤くなっていくのが自分でもわかった。
今まで気づかなかったけど、自分は翔のことが好きなんだって、今日初めてわかった。
「よし、オッケー」
写真を撮り終わると、早坂は男の子にスマートフォンを返し、カップルからお礼を言われて葉月の元へ近づいてきた。
「何かあの二人、すごい可愛かったね」
早坂が葉月にそう言うと、葉月は話しかけられたことに気づかず、呆然としていて何も反応をしなかった。
「長谷川さん?」早坂が不思議そうに言うと、葉月は再びハッとして、「あっ、ごめんなさい。私ちょっとぼーっとしてました」と言った。
「大丈夫? もしかして疲れた?」
「えっ、いや、大丈夫です」
「ごめんね、気づかなくて。あそこのカフェでちょっと休もうか」
早坂がそう言うと、二人は近くのカフェに足を運んだ。
やがて夜が更けて、道の両側に立つ木々に飾られているフェアリーライトにオレンジ色の明かりがつき、眩く輝き始めていた。
葉月と早坂はカフェから出て、そんな幻想的な景色を歩きながら眺めた。
「もう遅い時間ですし、そろそろ帰りましょうか」
「そうだね」
「今日はフレンチトースト食べれたし、可愛いグッズも買えたし、すごく楽しかったです」早坂を見ながら葉月が言った。
早坂も葉月を見て、「よかった。俺もたくさん写真撮れたし、長谷川さんといろいろ見れて楽しかったよ。今日はありがとね」と笑顔で言った。
「こちらこそ、ありがとうございます」
今日はいい日だった。
ライトに照らされた道を歩きながら、葉月は幸せな気持ちになっていた。
「━━あのさ、長谷川さん。帰る前に少し聞いてほしいことがあるんだ」
「何ですか?」
急に改まった早坂を見て、葉月は胸が引き締まった。二人は自然と立ち止まる。
「長谷川さんが悩んでる姿を見てる時、ずっと何とかしてあげたいって思ってた。それで長谷川さんを見ていくうちに、わかったことがあるんだ。それは長谷川さんが、自分のことよりも常に人のことを考えて行動してるってこと。自分の仕事で大変なのに、困ってる人とか見るとつい手を貸しちゃったりとか。そう言うとこが俺はすごく素敵だなって思ったんだ」
葉月は早坂の話をただ黙って聞いた。
続けて早坂は「それに、たまに見せてくれる長谷川さんの笑顔が、前からすごく可愛いなって思ってた。だから、最初は長谷川さんのことをただ助けたいって思うだけだったけど、今は違う」と言った。
次の瞬間、早坂は真剣な目で葉月を見ると、「俺は長谷川さんのことを彼氏として、ずっと近くで見ていたいって思ってる。だから俺と付き合ってください」と頭を下げながら葉月に手を差し出した。
辺りにいた人々は葉月と早坂を見て、「えー、告白?」と言ったり、「どんな返事するのかな?」と口々に言ったりしている。
沈黙が続き時間だけが過ぎていく中、とうとう葉月は口を開いた。
「早坂さん、ごめんなさい……!」そう言いながら葉月は頭を下げた。
それを聞いた早坂は頭を上げて葉月を見た。
葉月も早坂に続けて頭を上げると、「早坂さんのことは、いつも笑顔でいて素敵だなって思うんですけど……これからも友達のような、先輩後輩の関係でいたいんです」と言った。
一瞬、早坂は残念そうな顔をすると、「誰か他に好きな人でもいるの?」と訊いた。
葉月は静かに頷く。
「そっか……。会社の人とか?」
「違います」
「違うんだ。てっきり月野さんが好きなのかと思った」
葉月はまさかと思ったが、口には出さないでいると、早坂が「仕方ない。じゃあ、これからも先輩としてよろしくね」といつもの笑顔で言った。
「はい」
早坂からの告白。
笑顔が素敵なだけではなく、断るのが申し訳ないくらい格好良くて優しい早坂に、告白をされて嬉しくないわけはなかったが、今日のことをきっかけに、葉月は翔のことが好きだとはっきりと思えるようになった。
明日、翔に告白の返事をしよう。
☆
今は注文したフレンチトーストが来るのを待っている最中だ。
休日に早坂と二人だけで会うのは初めてと言うこともあって、葉月はいつもより緊張していた。
普段見せない私服を見られるのも何だか恥ずかしかったし、どう思われているかわからない不安もある。
そんな自分に対して早坂を見たら、全然緊張しているようには見えなかった。それに早坂の着ている私服は、青いシャツに白いテーパードパンツと言った清潔感のある服装で、スマートで大人な印象に見えた。
あまりデートに慣れていない葉月は、余裕のありそうな早坂を見て、余計に不安になった。
しかしそれらの感情は全て、早坂のある行動によって覆されることになるとは、この時はまだ思いもしなかった。
「早坂さん……そろそろ食べませんか?」
葉月は注文したフレンチトーストが来ても食べようとせずに、一眼レフカメラでお店の中やフレンチトーストの写真を撮っている早坂に向かって言った。
早坂は一度手を止めて、「あ、ごめん。よかったら先に食べてて」と葉月を見て言うと、すぐにまた写真を撮り始めた。
「そんなに写真撮ってどうするんですか?」呆れた顔で葉月が言った。
「インスタに載せようと思って」
「インスタ……」
前もどこかでこんなことがあったなと葉月は思い出した。そして写真を撮ることに夢中になっている早坂を見ていると、さっきまでの緊張がまるで嘘のように、気持ちが楽になっていった。
安心した葉月は早坂を置いて先に食べることにした。
間もなくして、早坂は満足したのか写真を撮り終えると、カメラを置いてようやくフレンチトーストを食べ始めた。
「美味しいね。来てよかった」
「ですね」葉月は笑顔で言った。
そんな葉月を見た早坂は「長谷川さん、何か変わったね。前と違って明るくなった気がする」と言った。
「え、そうですか?」
「うん。それに何か垢抜けたって言うか、前より可愛くなったよね。今日の服も似合っててすごく可愛いよ」
葉月は早坂に褒められ、途端に恥ずかしくなって顔を赤くした。
どう思われるかなんて、余計な心配をして損したかもしれない。
以前よりも明るくなったのは、きっと父と仲直りしたことがきっかけだろう。改めて葉月は父と仲直りできてよかったと心から思った。
「早坂さんがカメラを好きになったのって、確か学生の時からなんですよね?」
「そうだよ。あの時は純粋に撮ることだけが楽しくて、自己満足みたいな感じだったけど、今は違って、人が喜ぶ顔を想像して撮ってるんだ」
「そうなんですね。何かそれ、上手く言えないけどすごくいいと思います」
「ありがとう。だから休日になるとつい、写真を撮らないと気が済まなくなっちゃって━━さっきはごめんね。せっかく長谷川さんと一緒にいるのに」
それであんなに熱心に写真を撮っていたのかと葉月は納得した。
「気にしないでください。そう言うことなら私むしろ、もっと撮ってほしいです」
「え? 長谷川さんのこと撮ってもいいの?」
早坂の目が急に輝いた。
自分を撮ってほしいなんて一言も言っていないのに、何を勘違いしているのだろう。
「えっ、いや、そう言うことじゃなくて、景色とか物とか……」
「嬉しい。じゃあ、これからは長谷川さんのことを撮ることにするね」
どうやら、葉月の言っていることが耳に入らないほど喜んでいるようだ。そんな張り切っている早坂のことを考えると、否定するのも悪い気がして、葉月は仕方なく受け入れることにした。
もしここにいるのが翔だったら━━いけない、今は早坂とのデート中なのに、そんなことを考えたら早坂に失礼だ。
葉月は反省しつつも、気を取り直して早坂との会話を楽しむことにした。
パンケーキを食べ終えて店を出た後は、雑貨屋や花屋に行ったり、早坂が行きたいと言っていた写真美術館で鑑賞を楽しんだりした。
そして早坂の言葉通り、時々チャンスを狙ってきては、早坂は葉月の写真を撮っていた。
途中、広場にあった噴水の前で早坂が写真を撮りたいと言うため、二人は立ち止まった。
「長谷川さん、こっち向いてー!」
仕方なくではあったが、葉月は指示に従って早坂の方を向いた。
早坂はシャッターを切ると、「いい写真撮れたよ! ありがとう」と満足そうに言った。
葉月は苦笑しながら、「よかったです」と言った。
すると、目の前にいた高校生くらいに見えるカップルが、「すみませーん。よかったら写真撮ってもらえませんか?」と葉月と早坂にお願いしてきた。
早坂は快く「いいよー」と言うと、そのカップルの男の子からスマートフォンを受け取り、写真を撮り始めた。
その二人をぼんやり見ていると、なぜか翔のことが頭に思い浮かんだ。
翔は今頃何をしているんだろう。会いたいな。
(ん……?)
次の瞬間、葉月はハッとした。
また翔のことを考えてしまった。気づくと翔のことばかり今日は考えている。
もしかして、自分は翔のことが好きなのだろうか。
そう思うと頬が段々熱くなり、顔が赤くなっていくのが自分でもわかった。
今まで気づかなかったけど、自分は翔のことが好きなんだって、今日初めてわかった。
「よし、オッケー」
写真を撮り終わると、早坂は男の子にスマートフォンを返し、カップルからお礼を言われて葉月の元へ近づいてきた。
「何かあの二人、すごい可愛かったね」
早坂が葉月にそう言うと、葉月は話しかけられたことに気づかず、呆然としていて何も反応をしなかった。
「長谷川さん?」早坂が不思議そうに言うと、葉月は再びハッとして、「あっ、ごめんなさい。私ちょっとぼーっとしてました」と言った。
「大丈夫? もしかして疲れた?」
「えっ、いや、大丈夫です」
「ごめんね、気づかなくて。あそこのカフェでちょっと休もうか」
早坂がそう言うと、二人は近くのカフェに足を運んだ。
やがて夜が更けて、道の両側に立つ木々に飾られているフェアリーライトにオレンジ色の明かりがつき、眩く輝き始めていた。
葉月と早坂はカフェから出て、そんな幻想的な景色を歩きながら眺めた。
「もう遅い時間ですし、そろそろ帰りましょうか」
「そうだね」
「今日はフレンチトースト食べれたし、可愛いグッズも買えたし、すごく楽しかったです」早坂を見ながら葉月が言った。
早坂も葉月を見て、「よかった。俺もたくさん写真撮れたし、長谷川さんといろいろ見れて楽しかったよ。今日はありがとね」と笑顔で言った。
「こちらこそ、ありがとうございます」
今日はいい日だった。
ライトに照らされた道を歩きながら、葉月は幸せな気持ちになっていた。
「━━あのさ、長谷川さん。帰る前に少し聞いてほしいことがあるんだ」
「何ですか?」
急に改まった早坂を見て、葉月は胸が引き締まった。二人は自然と立ち止まる。
「長谷川さんが悩んでる姿を見てる時、ずっと何とかしてあげたいって思ってた。それで長谷川さんを見ていくうちに、わかったことがあるんだ。それは長谷川さんが、自分のことよりも常に人のことを考えて行動してるってこと。自分の仕事で大変なのに、困ってる人とか見るとつい手を貸しちゃったりとか。そう言うとこが俺はすごく素敵だなって思ったんだ」
葉月は早坂の話をただ黙って聞いた。
続けて早坂は「それに、たまに見せてくれる長谷川さんの笑顔が、前からすごく可愛いなって思ってた。だから、最初は長谷川さんのことをただ助けたいって思うだけだったけど、今は違う」と言った。
次の瞬間、早坂は真剣な目で葉月を見ると、「俺は長谷川さんのことを彼氏として、ずっと近くで見ていたいって思ってる。だから俺と付き合ってください」と頭を下げながら葉月に手を差し出した。
辺りにいた人々は葉月と早坂を見て、「えー、告白?」と言ったり、「どんな返事するのかな?」と口々に言ったりしている。
沈黙が続き時間だけが過ぎていく中、とうとう葉月は口を開いた。
「早坂さん、ごめんなさい……!」そう言いながら葉月は頭を下げた。
それを聞いた早坂は頭を上げて葉月を見た。
葉月も早坂に続けて頭を上げると、「早坂さんのことは、いつも笑顔でいて素敵だなって思うんですけど……これからも友達のような、先輩後輩の関係でいたいんです」と言った。
一瞬、早坂は残念そうな顔をすると、「誰か他に好きな人でもいるの?」と訊いた。
葉月は静かに頷く。
「そっか……。会社の人とか?」
「違います」
「違うんだ。てっきり月野さんが好きなのかと思った」
葉月はまさかと思ったが、口には出さないでいると、早坂が「仕方ない。じゃあ、これからも先輩としてよろしくね」といつもの笑顔で言った。
「はい」
早坂からの告白。
笑顔が素敵なだけではなく、断るのが申し訳ないくらい格好良くて優しい早坂に、告白をされて嬉しくないわけはなかったが、今日のことをきっかけに、葉月は翔のことが好きだとはっきりと思えるようになった。
明日、翔に告白の返事をしよう。
☆