和菓子が繋ぐラグジュアリー。

「早くその包みをよこせ」

「えっ……あ、はい。お待たせしました」

あ、何だ……茶菓子を待っていたのね。
 待ち構えるほど、ここの和菓子が好きなのかしら?
 私は、慌てて包みから茶菓子が入った箱を華京院様に手渡しした。

 華京院様は、黙って受け取ると箱を開けて中身を確認する。
 今回は、桜餅を頼んだらしい。
 桜餅は、春の季節にピッタリでモチモチの焼き皮に
こしあんを巻いてある。桜葉が春の季節を感じる。
 桜葉を剥がすと手で豪快に食べる華京院様。
しかし食べながら私を見ると食べろと箱を差し出してきた。

「あ、ありがとうございます……」

 菓子鉢も何もないので戸惑うが、差し出された以上
食べないと申し訳ない。
 スッとハンカチを取り出して菓子鉢代わりにして
桜餅を受け取る。そして桜葉を剥がして同じように食べる。

ちなみに桜葉は、剥がしてもそのまま食べてもいい。
 あくまでも香りを楽しむもので決まりはない。
手掴みだが一口食べるとさっぱりとしていて
上品な甘さだ。美味しい……さすが老舗の高級和菓子店だ。

「美味しいです……とても」

 思わず感想を言うと華京院様は、黙ったまま
箱をテーブルに置いた。あれ?いけなかった?
 華京院様の行動に戸惑っていると私の方を見て。
「今夜空けておけ。一緒に食事をするぞ」と言ってきた。

 は、はい……?
えっ?私と華京院様がですか!?

「あの……どうして?」

「ニセモノとは言え一度も食事などに行ってないのは、
ヤバいだろう。ここは、レストランもあるのに……」

 あ、確かにそうだ。婚約者のふりをしていても
まったく何もしていないのも変よね。
 お互いに好きな食べ物すら知らない状態だ。
これは、会長夫人に何か聞かれたら答えられないわ。

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