和菓子が繋ぐラグジュアリー。
まずここに買いに来るお客様から違う。
オフィスビルや総合病院で働いている社長や令嬢など
セレブ達が買いに来るし、顧客のための茶菓子として
用意されることが多いってことだ。
普段は、秘書や社員などが買い付けに来ることもあるが
急な準備などでスタッフや女将さんが、わざわざ
届けることも頻繁にあるらしい。
「届ける時は、お店の顔として失礼のないように。
挨拶もきちんとしてね。どう?大丈夫そう?」
「は、はい。が、頑張ります……」
全然大丈夫じゃない。どうしよう自信がないわ。
お菓子職人としての腕もまだまだ修行中なのに
よりにもよってセレブや顧客に出すなんて……。
もし不味いのを作って出したらお店の顔に泥を塗ることになってしまう。
それだけではない。配達だなんて……。
昔から内気で自分に自信がない私なのに
セレブ達にちゃんと失礼がないように接することが
出来るだろうか?
下手に怒らせたりしたら……恐ろしいことになりそうだ。
すると電話が来た。女将さんは、話を中断して
電話に出るのだが……。
「丁度良かったわ。花恋ちゃん。
あなた届け物をしてくれないかしら?」
「えっ……今からですか!?」
ちょっと待って。今日初日なんですけど!?
まだお店のやり方や接客のやり方を学んでない。
説明されただけで実践もしていないのに……無理よ。
しかし女将さんは、ニコニコしながら無言の圧力をかけてきた。
これは、やらないといけないパターンだ!
私は、泣きたくなった。そんな……。
結局、断ることも出来ずに行くことになった。
この白い作業服では行けないので女将さんに昔
着ていた着物を貸してもらった。
上品な牡丹の柄の水色の着物だった。
着物を着るのは、祖母の影響で慣れていて好きなのだが
行く場所が行く場所なだけに胸が余計に苦しくなってくる。