ハルカカナタ
 巻町さんは『仕事以外はポンコツ』とゆうその類稀なる特性を最大限に発揮した。

 僕も僕で彼女の予想外に激しいリアクションに慌てる。多少は驚かれるのは予想していたが、まさか此処までとは予想していなかった。

「そんな事言われても!そりゃあカナタ君はイケメンだしスタイルいいしちょっと何考えてるかわかりにくいし優しいし暗いと言われたら否定はできないし可愛いとこあるしデートぐらいしようと思えばいくらでも出来るだろうけど!」

「テンパり過ぎて句読点忘れてますよ。あと、褒めてるっぽく言いながらちょいちょいディスるのやめて貰っていいですか?」

「妹属性にしか興味ないカナタ君を私が大人の魅力で更生させて大学卒業と同時に結婚して郊外に小さいけど庭付きの一軒家買って子供は男の子2人に女の子1人の幸せな家庭を築くって私の計画はどうするの!?」

「いや、しらねーよ。あ、すみません、つい。巻町さん編集より作家の方が向いてるんじゃないですか?あ、すみません、つい」

 今にも飛びかかって来そうな程前のめりになっている巻町さんの肩を押して座らせる。

「とにかく落ち着いてください。周りの視線が痛すぎるんで、お願いします」

 まるで痴話喧嘩をしているカップルを見るような視線が心を刺して来る。

「あっ、ごめんなさい・・」

 少し落ち着いたのか巻町さんも視線に気付いて縮こまり、耳まで赤く染めて俯いてしまった。

「あら?もしかしてまだ打ち合わせ終わっていないのかしら?」

 と、そんな混沌とした空気も全く気にせず現れたのは学術的に僕の【彼女】である西原綾。

「あれ?綾ちゃん?」

「いや、打ち合わせは終わってる」

「巻町さん、ご無沙汰しています。父がいつもお世話になってます」

 御手本の様な御辞儀と挨拶をした綾は、自然に僕の隣の椅子に腰を落ち着けた。

 黒のノースリーブのシャツに下は明るい紫のペンシルスカート、サンダルを履いた足先の爪には控えめなペディキュアが塗られている。

 身体のラインが丸わかりになるそのコーディネイトは、彼女を年齢以上に大人に魅せていた。

 目の前のポンコツな女性より余程。

「久しぶりね。そう言えば同じ大学だったね。友達なら遊びにぐらい行くわよね」

 やけに『友達』を強調している気がするのは多分気の所為だ。

「巻町さん、実は私達付き合ってるんです。今日が初デートなんですよ」

「そ、そ、そ、そうなんだ」

 全く動揺を隠せていない巻町さんと、いつも通り余裕しゃくしゃくの綾を見ていると年齢ってあまり関係ないんだな。などと考えてしまう。

「はい。打ち合わせ終わったのならカナタ貰って行っていいですよね?」

「ええ、も、も、も、勿論」

「じゃあ、すみませんが失礼します」

「巻町さん、それではまた」

 僕とは綾は口々に巻町さんに言って席を立った。

「あ、はい、それじゃあお願いしますね、高花先生」

 仕事モードに切り替わった巻町さんに見送られて僕達は店を後にした。

「取り敢えずどっかで昼を済まそうか」

 カフェで済ませる筈だった昼食を何処で食べようかと思案しながら、飲食店が並ぶ6階を目指す。

 
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