ハルカカナタ
 エスカレーターを使うのが面倒だと思い、エレベーターに向かい、三角形の描かれたボタンを押す。

「デート・・だものね」

 隣に居た綾からそんな声が漏れ聞こえてきた直後、肘に柔らかい感触がしてついで甘い香りが鼻腔をくすぐった。

 何事かと頭を90度回すと斜め下15センチの所に綾の整った顔があり、耳まで真っ赤に染めて僕の腕にしがみ付いていた。それはもうコアラみたいに。

「恥ずかしいならそこまでしなくてもいいんじゃないか?」

「ぜ、全然恥ずかしくなんてないわよ。恋人なのだからこれぐらいは当然でしょ」

 少し上擦った声を出す綾を見て苦笑する。

「カナタは随分と平気そうね?」

「まあ、いつもハルカに抱きつかれてるからな」

 カナタ『は』と綾が言ったのは気付かないフリをして返す僕に綾が不満そうな顔をした。

「恋人とのデート中に他の女の話をするのはどうかと思うわよ?」

「いや、お前が聞いてきたんだろ。つか他の女って妹だし」

「妹なのだから女でしょ?特にカナタにとっては」

「お前な、リアクションに困るからそうゆう事言うなよ」

「お前じゃなくて、綾」

 エレベーターが到着し、僕達は6階まで上がった。

 選んだのはパスタの店で、そこそこ人は多かったが待たずに席に案内された。カルボナーラと明太子と大葉の和風パスタをそれぞれ注文する。

「今更だけど、巻町さんに迄嘘つく必要なくないか?」

 店員がテーブルから離れたのを見計らってから綾に問いかけた。

「あら、どうしてかしら?」

「だって学校とは関係ないだろ。ハルカに伝わればいいわけだし」

「それじゃダメよ。中途半端な事をしたら何処から漏れるかわからないし、もしカナタが【高花流華】だとハルカにバレたら巻町さんと会う事だって考えられるわよ」

「でも、おま・・綾の親父さん、編集長にも伝わるかも知れないぞ?」

「私は構わないわよ。寧ろお父さんに知られて被害を被るのはカナタの方だろうし」

 付き合って直ぐ親公認は確かに中々ヘビーだ。まあ救いは編集長と会う機会は多くないってところか。

「・・まあ、何とかなるだろ」

 願望を口にしてから僕はその話題を終わらせた。

 パスタの味の方は可もなく不可もなくといった感じで、不満も感動もなく昼食を済ませて店を出る。

 胃もたれしそうな程こってりとしたラブストーリーの映画を観て、腕をガッチリとホールドされたまま女性物の下着専門店に付き合わされ、本屋を冷やかし時間を潰す。

 夕方6時を回り、そろそろ晩飯でもと思っていたところで僕のスマホがポケットの中で震えた。

 画面に表示されていたのは見慣れた番号見たくない番号だった。



 


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