ハルカカナタ
「似合ってる、すごく綺麗だ」

 商業作家としてあるまじき語彙の低さを露見してしまったのも許して貰えると思う。

「へへ〜ん!まっ、カナタに言われても嬉しくないけどね」

 ハルカは嬉しそうに言って、大学とは反対方向に歩きだした。

「それは悪いことしたな」

 僕は悪態をついてハルカの後を追う。

 後ろから見えたうなじが堪らなく艶かしく、少し早足でハルカの横に並んだ。

 駅から国道に沿って大学とは逆方向に進むと、オフィス街がありそこそこの高さのあるビルが並んだ一画がある。

 そこまで都会では無い街のオフィス街は、5分程歩くと終わりを迎えて空が広がった。

 国道を逸れて、一本中側の道に入ると屋台が切れ間なく並んだ道路に出る。

 祭りの2日間の夕方から夜にかけて、歩行者天国になる為車は許可車を除いて通る事は出来ない。

 この道路が1.5キロメートル程あり、終点は河川敷になっていてそこで花火が上がる。

「あ!カナタリンゴ飴あるよ!リンゴ飴!」

「見りゃわかるよ、相変わらずリンゴ飴好きだな」

「当たり前じゃん!お祭りに来てリンゴ飴食べないとか有り得ないし!」

「まあ昔っからリンゴ飴が最高の食べ物だって豪語してたもんな」

「今は1番ではないけどね〜」

「そうなのか?」

「うん、今は54位ぐらいかなぁ」

「めっちゃ下がってんじゃん!リンゴ飴に何があったんだよ!?」

 急激にランキングを落としていたリンゴ飴にツッコミを入れている間に、ハルカは人混みを縫ってリンゴ飴の屋台に向かって行く。

 見失わない様に後をついて行き、ハルカがひと口サイズのリンゴ飴を買った。

「ん〜、やっぱこれぞお祭りって感じだよね!」

「そう言えばリンゴ飴って祭りでしか見ないな」

 探せば祭りじゃ無くてもあるのかも知れないが少なくとも僕は見た事はない。

 ハルカはビニールがリンゴ飴に付かない様に気をつけながら包みを開けて、ピンク色の舌を出してペロッと擬音が聞こえそうな仕草で舐めた。

「えっ・・」

 思わず『えっろ』と口走ってしまいそうになり、どうにか自制出来たものの凝視してしまった。

「何?カナタも食べたいの?仕方ないなぁ」

 視線に気付いたハルカがそんな事を言いながら右手に持ったリンゴ飴を差し出して来る。

「ひと口だけだからね!」

「いやいや、違うから!いらないっての」

 下着姿とか普段見ていても、こんな『関節キス』なんて今時中学生でも気にしない様な事に動揺する自分が情け無い。


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