ハルカカナタ
「ふ〜ん、美味しいのに」

 いつもならもう少し絡んで来る筈なのに、ヤケにあっさり引いたハルカに少し違和感を感じる。

「さーて、次は何食べようかなぁ」

 リンゴ飴を片手に歩き始めたハルカと逸れないように付いて歩く。

 何かを見つけたのか、ハルカが急に立ち止まった。視線を追うと焼きそばを売っている屋台があり、そこを凝視していた。

 食べたいのかと思ったが、それは無いと思い直す。ハルカは焼きそばが苦手だからだ。それに、屋台を見るハルカの視線はどう控え目に表現しても真剣過ぎる。

 多分30秒くらいは立ち止まっていたのでは無いかと思う。いい加減人の流れの中で立ち止まっている事に限界を感じて、声を掛けようと僕が口を開こうとしたその時、ハルカが犬に『お手』とでもする様に手の平を上に向けて差し出した。

「ん?何?焼きそば奢れって事?ハルカ焼きそば食べないだろ」

「違う、焼きそば嫌いだし」

「だったら何だよ?かつあげ?」

「だから!んっ!」

 要領を得ないハルカに首を傾げていると、アゴを向けて屋台の方を見ろとジェスチャーをして来た。

 見てみるが、そこには汗だくで焼きそばを炒めているちょっと怖めのお兄さんと、焼けるのを待っている高校生くらいのカップルがいただけだった。

 つか、作り置きしてねえのかよ。まあ、出来立ての方が美味いのは間違いないけど。

「え?マジで何なの?」

 回答を見つけられない僕は面倒になってハルカに直接問いただす。

「だから!あれ!」

 ハルカの左手は相変わらず『お手』を待っているので、リンゴ飴のリンゴの部分で何かを指した。

 どうもカップルの間を指している様だ。それも、少し下の方。

「・・は?」

 僕はそれを見て、ハルカを見て、またそれに視線を戻す。

「んっ!」

 早く!と言わんばかりにハルカが左手を寄せて来る。

「いやいやいや!」

 リンゴ飴の先にあったのは『もう離さないよ』『うん、離さないで』と声が聞こえて来そうな程しっかりと繋がれたカップルの手だった。それも、指を絡めた俗に言う恋人繋ぎ。

「何言ってんの!?いや、何も言って無いけど!いや、でも何してんの!?」

「察してよ!」

「察しとるわ!だから、何でって聞いてんだろ!子供じゃあるまいし、迷子になるわけでもないだろ!」

 そもそも、逸れたとしてもスマホがあるのだから合流は難しくもない。

「繋ぎたいからよ!あーもう!!」

 怒鳴ったハルカが強引に僕の右手を取って歩き始める。

 ツナギタイ?

 意味を理解出来ない言葉がカタカナで頭に浮かぶ。

 繋ぎたい?

 漸く漢字に変換された言葉を反芻してみた。

 繋ぎたい?

 手を?


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