ハルカカナタ
 ハルカが?

 僕と?

 ハルカが僕と手を繋ぎたい?

「お、おい!ちょっと待てって!」

 元々家で2人で居る時のハルカはじゃれて来たり甘えて来る事は日常的にある。それは勿論誰も居ないからであって、人目のある外でスキンシップを取って来る事はない。

 ハルカもきっと自分が甘えるのは、兄妹の標準のそれを超えているのだと自覚しているからだと思う。

 だから人前で手を繋ぐなんて事は有り得ない。

「おい!ハルカ!」

「今日はカナタは一樹さんの代わりなんだから手を繋ぐくらいいいじゃん!」

「良いわけないだろ!お前言ってる事無茶苦茶だぞ!?」

 ハルカは僕の手を引いたまま、突然脇道にそれて少し進んだ所にあった小さな公園に入った。

 ブランコと小さな滑り台、滑り台を滑った先に言われなければ気付かない程度の砂場があった。

 よく見ると隅っこに石造りのベンチがあり、ハルカは真っ直ぐにそこに向かって歩く。

 強制的に僕をベンチに座らせてから、自分も横に座る。ベンチと呼ぶには狭く、必然的に肩から腕にかけて密着してしまう。

「どうしたんだよ、今日少し変だぞ?彼氏となんかあったのか?」

 暫くしても口を開く気配がなあハルカに思い当たる事を尋ねてみた。

「・・変なのはカナタもじゃん」

「は?何処がだよ?」

「どうして綾と別れたの?」

 祭りの喧騒に混ざって何処からか太鼓の音が聞こえて来る。盆踊りでもしているのだろうか。

 祭りの喧騒も太鼓の音も、そんなに距離はない筈なのに不思議な程遠く感じる。

「・・ハルカがお兄ちゃんで居ろって言ったんだろ」

「普通はお兄ちゃんで居てって言われて、彼女と別れたりしないよ」

「それは、ほら、綾と付き合ってるとお前と居てやれる時間も減るし」

「だからって普通妹にそんな事言われて別れたりしないでしょ」

「お前な、自分で言っておいてそれはないだろ?僕だって色々考えて決断したんだぞ」

「何を考えたの・・?」

「・・色々だよ」

「だからその色々が何かって聞いてんの」

「お前本当おかしいぞ?そんなのもう終わった事なんだからどうでもいいだろ」

「・・ってないよ」

「は?何だよ、聞こえない」

「終わってないよ!何も!」

 声を荒げて僕を見つめるハルカは怒っているようにも、泣いているようにも見えて、僕は自分の心臓の鼓動が早くなっていくのがわかった。

「意味わかんねえよ、何なんだよマジで」


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