ハルカカナタ
「・・私の浴衣見てどう思った?」

「は?」

 あまりの話の飛び様に頭が追いつかない。

「だから、私が浴衣着てるの見てどう思ったの?」

「いや、そりゃ綺麗だと思ったよ。大人になって着てるの初めて見たし」

「それはどうゆう意味で?」

「おい、ほんと意味わかんねえよ。綺麗に意味もクソもないだろ」

「女として綺麗だと思ったの?それとも妹として?」

「っ!?」

 ハルカの言葉に心臓が悲鳴を上げ、頭がひとつの可能性を導き出した。

「そんなの妹としてに決まってるだろ!」

 その可能性を否定しようとして声が荒ぶって制御出来ない。

「私、知ってるの」

 祭りの喧騒も、太鼓の音も心臓の音に塗り潰され血液が激しく全身に送り出されていく音しか聞こえない。

「カナタのノーパソ見た」

 心臓が破裂する血管が切れるそれでも熱い血液が全身を巡り、強制的に身体が熱を持つ。

「【僕が妹に抱いている気持ちは恋ではないはず】」

 これで全部終わり

 もう心臓の音すら聞こえない

「あれ、私とカナタだよね」

 疑問じゃなく確信したその声が鮮明に耳朶を打つ。

 出版された本の方ならばまだ言い訳も出来たかも知れない。だが、原文はもう僅かな逃げ道すら残されていない。

「・・ごめん」

 謝りたかった訳ではない、ただ純粋にそれ以外に言える言葉が無かっただけ。

「・・・」

 沈黙が静寂を呼び、静寂が全身を締め付ける。

「ごめん」

 空気が薄い

 呼吸が浅く早くなっていく

「ごめん、ハルカ」

「創作だって、作り話だって、私達とは何の関係もないって、そう言ってよ!」
 
「・・・」

「そう言ってよカナタ!!」

 結局僕は何も出来なかった。

 ハルカを諦めて兄になる事も

 綾の覚悟に報いる事も

 全部半端で

 何も守れなくて

 全部壊しただけ

「カナタがそう言ってくれるなら!私も我慢したのに!我慢出来たかもしれないのに!昔みたいに兄妹になれたのに!」

「やっぱ、気持ち悪いよな・・血の繋がった兄貴が自分を女として見てたなんて」

「気持ち悪い!だって兄妹なんだよ!?おかしいよ!普通じゃない!お母さんに、お父さんになんて言うの!」


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