ハルカカナタ
「ちょっと実家帰って来るね」

 ハルカがそう言って少し大きめの鞄に着替えを詰めて家を出たのは、学校が始まる1週間前だった。

「どうかしたのか?」

「ううん、大した事じゃないんだけど、ちょっとお父さん達に話しがあるから」

 曖昧な言い方に違和感があったが、まあ言い辛い事もあるかも知れないと聞き流した。

「学校迄には戻って来るんだろ?」

「うん、2.3日で帰って来るよ」

「わかった」

 ハルカが予定より1日遅れで戻ってきて、夏休みも残り3日。大学の準備をぼちぼち始めていると、スマホの着信音が鳴りディスプレイには『西原綾』と表示されていた。

「はい?」

『カナタ、今ハルカ側に居る?』

 綾のそんな第一声に首を傾げながらバスルームの方に目をやると、微かにシャワーの音が聞こえる。

「いや、今シャワー浴びてるけど、なんかハルカに用事か?伝えるけど」

『そう、ちょうど良かったわ。今から少し出てこれないかしら、5分10分程度で済むのだけど、出来たらハルカには私と会うってバレないように』

「なんなんだ?」

 あからさまに含みのある言葉に少し声のトーンが落ちてしまう。

『ハルカの事で話しがあるの、大事な話』

「・・わかった。近くに居るのか?」

『ええ、貴方の家の側の公園よ』

「すぐ行く」

 通話を終わらせてからバスルームのドアを開けてハルカに聞こえるように少し大きめにコンビニに行って来ると言うと、中からくぐもった声で『わかった』と返ってくる。

 着の身着のままでサンダルを引っ掛けてから、足早にアパートを出て公園に向かった。

 花火の時にハルカと行った公園よりは少し広い。その敷地内に自販機がひとつあり、その横にあった丸太を模した椅子に綾の姿を見つける。

「それで、ハルカの事で話ってなんだ?」

 自販機でアイスコーヒーのブラックを2つ買って、1つを綾に渡しながら問い掛けた。

「私、缶コーヒーってあまり好きじゃないのだけれど」

「僕もだよ。いらないなら僕が飲む」

「いただくわ」

 9月も終わりに近づいて陽射しも落ち着いて来たのと、もうじき日が沈み始める時間なのもあり心地よい気温だった。

「コンビニに行くって出てきたからあんま時間ないぞ」

「そうね、私は久々にカナタとゆっくり話しがしたいのだけど、そうも言ってられないわね」

 綾はコーヒーのプルトップを引き上げて中身をひと口含んだ。

「ハルカとはセックスしたの?」

「ぶっ!!!」

 綾と同じようにコーヒーを飲もうとしていた僕は盛大に吹き出した。

「汚いわね・・」

 あからさまに顔をしかめて綾がポケットティッシュを出した。受け取ってから口の周りを拭く。

「突然なんて事聞いてくんだよ!」


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