ハルカカナタ
 ああーーー

 そうかーーー

 もう、全部壊れたーーー

 




 どのくらいの時間、そうしていたのかわからない

 外はもう明るくて

 身体を動かそうとして、凝り固まった関節がギシギシと音を立てた。

 それでも無理矢理に立ち上がった。

 いつから鳴らされているのか、スマホの着信音とインターホンの呼び出し音が絶え間無くな続いている。

 スマホには【坂下博人】の文字。

 インターフォンの小さな画面には耳にスマホをあてた博人が映っていた。

「どうした?」

 インターフォンの通話ボタンを押してから出した声は擦れていて聴こえたかどうか疑わしい。

『ちょっと開けろ』

 インターフォン越しでもわかる怒気を孕んだ博人の声。

 解錠のボタンを押すと画面から博人の姿が消えて、すぐに玄関が開く音がした。

 荒々しい足音を立てて博人が部屋に姿を見せた。

 それと同時に僕は背中からテーブルに倒れ込んだ。テーブルの上に置かれていた物がけたたましい音を立てて床に散らばる。

 遅れてから頬の熱さと、口の中に広がる鉄の味で殴られたのだと理解した。

「・・すんだよ」

「あぁ!?」

「・・痛ぇだろうが」

「お前こんなとこで何してんだよ!!」

 銀髪を振り乱し、博人は僕の胸ぐらを掴んだ。

「ハルカちゃんとこ行けよ!」

 まるで糸の切れたマリオネットみたいに僕の身体は博人の腕に垂れ下がる。

「・・もう、終わったんだ」

「なんも終わってねえだろうが!!」

「ーーーこれが、ハルカの望みなんだよ!僕にどうしろって言うんだ!ハルカが望んで!ハルカが決めたんだ!父さんや!母さんに!認められない僕達じゃダメなんだよ!」

「だからなんだよ!!そんなもん関係ねえだろうが!!お前はどうしたいんだよ!!カナタはどうしたいんだよ!!このまま終わっていいのかよ!!」

「いいわけないだろ!!嫌に決まってる!!嫌だよ!!でも僕達は兄妹なんだよ!どうしようもないだろ!」

「だからそんなもん関係ねえって言ってるだろうが!惚れた女がたまたま妹だっただけだろ!好きな女が自分を好きでいてくれたならそれで充分だろ!それ以外何がいるんだよ!男だろうが!!惚れた女くらい幸せにしてみせろよ!!」

「・・でも」

「だ〜!もう!でもじゃねえ!どんだけくさい事言わせんだよ!恥ずか死するっての!ふざけんな!サッサと行けよ変態シスコン野郎!」

「おまっ!幾らなんでも変態シスコン野郎はないだろ!?しかも恥ずか死ってなんだよ!?」



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