ハルカカナタ
「博人君が教えてくれたのよ、西原さんと2人で家に来て、話さなくてもいいから認められなくてもいいから一目だけでも見てくれって」

 母さんの言葉に驚いて振り返ると、博人はバツが悪そうに視線を逸らし、綾は『貸し』と言わんばかりに不敵な笑を浮かべていた。

「お母さん、お父さん、ごめんなさい・・」

 耐え切れなくなった春歌が両手で顔を覆い、震える声で言った。

「父さん、母さん、僕からも本当にごめん。親不孝だってわかってる、迷惑をかけて申し訳ないとも思ってる、いくらでも説教も聞くよ、だから、今だけ、僕の事はどうでもいいから、一言だけ春歌のウエディングドレス姿を褒めてあげて欲しい」

「・・・」

「春歌、凄く綺麗よ、あんなに小さかったのにこんな綺麗になって・・」

 父さんは何も言わず、母さんは春歌を抱きしめて震える声で春歌を褒めてくれた。

「お母さん、お母さん、お母さん・・」

 顔を覆っていた両手を母さんの背中に回して、春歌がしゃくりあげる。

「あらあら、せっかく綺麗に化粧してるのに、ダメじゃない」

 母さんから離れた春歌がそのままの勢いで父さんに抱き『ごめんね』と繰り返す。

 父さんは戸惑いながらもおずおずと手を伸ばして春歌の背中を摩っていた。その瞳が少し潤んでいた様な気がしたのは僕の願望だったのかもしれない。

 暫くそうしていたが、まだ着替えてもないので仕方無く僕達は更衣室になっている部屋に向かう。

「この後簡単なパーティーをするのですが、お父様達も如何ですか?」

 離れて行く父さん達に綾が声をかけたが、父さんは一言『断る』と言って歩き出す。苦笑いをした母さんが綾と博人に会釈をしてから、父さんの後を追って歩き出した。

「写真撮ったのだろう?今度家に持って来い」

 聞き間違いかと思い、母さんの方を見ると小さく頷いていた。

「うん、わかった」

 返事してから今度こそ僕は着替えに向かう。

 その後、僕達は4人だけのパーティーをし、日付けが変わるまで騒いでから解散した。

 帰り際に博人と綾に改めて御礼を言うと『実は俺達付き合う事になった』と、斜め上のサプライズで返されたのは余談だ。

 案外相性がいい2人なのかも知れない。

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