政略結婚の甘い条件~お見合い婚のはずが、御曹司に溺愛を注がれました~
ドキドキハラハラの同居生活
都心部にパティスリーを展開するミレーヌが本社を構えるのは、湾岸エリアにそびえ建つ高層ビル。四十二階の社長室から眺める景色は格別で、空気が澄んだ晴れの日にはビル群の間から富士山が見えることもある。
来客を終えた理仁は、秘書の戸田晴彦が淹れた紅茶を飲みながら、ある雑誌を開いていた。何度となく読み返したせいでページの端がよれ、だいぶくたびれてしまったが。
そこに写る、はにかんだ笑顔にしばらく見入る。
その目もとは〝あのとき〟と同じ。嫌味なほどに青く晴れ渡った空の下、頬を濡らす理仁に差し出されたのは刺繍のワンポイントがある白いハンカチだった。
(やっと手に入れられるかと思ったら、姿をくらますとはね)
菜摘の弟を新居に連れてきて三日。まだ彼女は戻らない。
理仁がクスッと鼻を鳴らしたタイミングで、部屋のドアがノックされる。
「社長、先ほど経営戦略室より先月期の業績がまとまったとの連絡が入りました。機密フォルダをご参照くださいとのことです」
いったん退出した戸田が再び姿を現した。