政略結婚の甘い条件~お見合い婚のはずが、御曹司に溺愛を注がれました~

先代である会長の健次郎(けんじろう)の代までは創業当時の大衆路線のパティスリーを展開してきたが、理仁が専務就任と同時に思いきった改革を行った。
それまで〝街のケーキ屋さん〟だった、なんの変哲もないミレーヌを〝ワンランク上の高級感あふれるおしゃれなパティスリー〟にシフトチェンジさせたのだ。

店のリノベーションから始まり、商品や価格帯の再編成など細かなリサーチの末に完成したのが現在のミレーヌである。
当時は先代の健次郎の反発も少なからずあったが、入念な調査資料で何度となく説得して承認を得た。

SNSが広く使われる時代。〝おしゃれなパティスリーを発見〟というひとつの口コミがたちまち拡散され、今ではメディアでたびたび紹介されるまでになっている。
もちろん見た目だけの勝負ではない。味へのこだわりは創業当時から受け継いだものである。


「先ほど山崎(やまざき)さんから連絡が入りました」
「用件は?」
「新作の試食をしてほしいと」


ミレーヌのチーフパティシエである三十三歳の山崎エリカはフランスで経験を積み、一年前にミレーヌへやって来た。安心して任せられる、腕のたしかなパティシエである。最近は雑誌でも〝美人パティシエ〟ともっぱら評判だ。
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