政略結婚の甘い条件~お見合い婚のはずが、御曹司に溺愛を注がれました~
菜摘は照れ笑いをしながら椅子に腰を下ろし、伊達メガネを外した。
「なんでそんな変装みたいな真似を?」
和夫は目を真ん丸にしたまま、まじまじと菜摘を見て不思議そうに首を捻る。
「じつは……」
菜摘は、大地のふりをして理仁にいったん引き下がってもらおうとした顛末を話して聞かせた。結局そのまま連れ去られたのだから、失策といってもいいかもしれない。
しかも現時点で理仁の欠点やほかの女性の影を見つけられないどころか、彼の紳士的な言動に翻弄され通しときている。
「菜摘がそんな大胆なことをする娘だったとはね」
和夫がしみじみ呟く。
「こうなるとは思ってなかったの。引っ込みもつかなくなっちゃって」
一度嘘をついた手前、今さら〝本当は菜摘なんです〟と暴露もしづらい。もう少し大地としてあの家で過ごしてみるしかないだろう。