政略結婚の甘い条件~お見合い婚のはずが、御曹司に溺愛を注がれました~
理仁は〝キミ〟の部分をやけに強調していた。
的確な指摘が菜摘から言葉を奪う。喉の奥で声が詰まり、息だけが唇から漏れた。
「ともかく、大地くんは了承してくれたようだから、あとはお姉さんだね。キミからもう一度伝えてもらえる? 〝早く帰っておいで〟って。そうじゃないと……」
真顔で意味深に見つめられ、胸が早鐘を打っていく。
「……そうじゃないと?」
その先の言葉を待つが、理仁はその表情を解き、いたずらっぽい目をしてふっと笑みをこぼした。
「ま、いいや。菜摘さんが戻るまで待とう」
理仁はソファの背もたれに体を預け、長い足をゆったりと組み替えた。
やはり理仁は気づいているのではないか。
シャワーを浴びようとパウダールームでウィッグを外した菜摘は、大きな鏡に写る自分を不安いっぱいに見た。
理仁の数々の言動が、どうしてもそう思えてならないのだ。