政略結婚の甘い条件~お見合い婚のはずが、御曹司に溺愛を注がれました~
無理もないかもしれない。それくらい菜摘の変装は違和感がなかったのだ。
理仁でさえ、彼女を迎えに佐々良家へ行ったときに最初はわからなかったのだから。そのすぐ後には菜摘だと気づいたが。
「ただ、お洗濯物の中に白い布があって、いったいなにに使うのかと不思議に思ってはいたのですが」
「それで胸を押さえつけていたんだろうね。さらしだ」
菜摘にも大地にも会ったことのない美代子なら、ぱっと見で男だと判断すれば、そのまま思い込んでも無理はない。
おそらく菜摘は、そのまま連れ去られるとは思ってなかっただろう。あの場で大地に成りすまし、理仁を追い返すだけで終わりだと。
「理仁様、拭き終わりましたが、下着やパジャマはどういたしましょう」
「とりあえずそのまま布団を掛けておこうか」
女性だと判明したのに男性用のものを着させるのにはためらいがある。
振り返って見た彼女は、まだ髪が濡れた状態。ドライヤーで乾かしてやろうかとも思ったが、この状態で目覚めさせるのは酷だと考えなおした。
正体を暴かれたうえ、裸を見られたのではないかとパニックにさせたくない。
理仁はその場に膝を突き、菜摘の頬を撫でた。