政略結婚の甘い条件~お見合い婚のはずが、御曹司に溺愛を注がれました~

菜摘の手を掴んだまま彼が立ち上がる。


「あんまり綺麗だから見惚れた。よく似合ってる」


ストレートに褒められ、なにも返せない。

理仁は初めて出会ったときからそう。本音かどうかはべつとして、褒め言葉が直球なのだ。回りくどい言い方も曖昧な言い回しもしない。
そんな男性は菜摘にとって初めてのため軽率にしか感じられず、最初は警戒心しかなかった。それなのにいつの間にかそんな気持ちは薄れ、純粋にドキドキと胸を張り詰めさせるばかりの情けない状況になっている。


「じゃ、行こうか」


理仁が菜摘の腰に手を添えたため体が硬直する。自分で自分の反応に苦笑いしながら理仁の車に乗り込んだ。

ゲートが開き、ゆっくりと車が発進する。すっかり太陽が傾いた外は、空の色を徐々にオレンジ色に染めつつあった。
これまで大地として接していた仮面がなくなり、理仁とふたりきりの空間がなんとも心細い。ただ変装していただけだし、じつは理仁にも正体はばれていたのに、大地でいるのと菜摘でいるのとでは心境が全然違う。何度か乗っているはずなのに、初めて彼の車に乗る感覚だ。
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