政略結婚の甘い条件~お見合い婚のはずが、御曹司に溺愛を注がれました~

ショーケースを挟んだ向こうに立つ若い女性スタッフが、お客の邪魔にならないよう理仁に声をかける。やはりトップが現れるとピリッとした緊張感が走るものらしい。和やかに流れているように見えた店内の空気が、どことなく静粛なムードになった。


「山崎さんはいる?」
「チーフですね。少々お待ちください」


そのスタッフはいったん奥に引っ込み、白いコック帽を被った女性と一緒に戻った。
パティシエだろうか。きりっとした目もとが印象的な美人だ。遠目で見ても、素肌が陶器のように美しい。

(……あれ? あの女性ってたしか……)

以前、ミレーヌのパーティーに招かれたときに見かけた、真っ赤なイブニングドレスの美女だ。その女性が理仁を見てうれしそうに微笑む。


「いつ来るかと思ってたの」


社長を相手にしているのに友達を相手にするようなフランクな言葉遣いだ。


「連絡をもらってすぐに来られたらよかったんだけど。それで新作は?」
「すぐに用意するわね」
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