政略結婚の甘い条件~お見合い婚のはずが、御曹司に溺愛を注がれました~
優しい調子で名前を呼ばれても、そちらの方を向けない。いきなり体が岩のようになり、心臓だけが激しく動く。それでも意識だけは完全に左側、理仁に向いていた。
(手を繋がれているだけ。なんてことはないじゃない)
菜摘が自分を落ち着かせようとしていると、今度は左頬に柔らかい感触を覚えた。反射的にパッと理仁を見ると、彼はいたずらっぽく笑っていた。
「やっとこっち向いてくれた。唇まであと少しだな」
トクンと鼓動が揺れたのは、『唇にキスするまでにキミはきっと俺を好きになる』と言っていた理仁の言葉が頭を過ったせい。すぐ近くで絡んだ視線が恥ずかしくて目を泳がせていたら、彼は繋いでいた手を解き、肩を引き寄せた。この密着ぶりは心臓にとても悪い。
「人がいますから」
そう言って彼から離れようともがくが、すべては無駄な動き。むしろその抵抗で彼は抱き寄せる力を強めてしまった。
「心配しなくても見えないよ」