紅に染まる〜Lies or truth〜



「・・・っ」


既に真っ赤な兄の目から
ポロポロと涙が溢れた


これまでお互いが何度も何度も紡いできた枷のような【愛してる】の呪縛が

初めて心を吹き込まれたように艶を出した


「俺の愛をナメんなよ」


全く説得力の無い顔のまま
上半身を抱き寄せられる

少し震えの残る兄の身体が
不安だった心を表していて嬉しくなる

素直になろうと思うのに
どうしても黙っていられなかった


「臭いオバサンの腰を抱いてた」


「・・・っ!」


「若様、今夜は誰かしら、なんて夜の女達が色めき立ってた」


「それは・・・」


「髪型で決めてたの?」


「・・・いや」


歯切れの悪くなった兄の身体は
さっきより震えていて

私のために一生懸命になってることが嬉しい


震える兄が可愛いと思える
不思議な感覚に

クスッと笑うと
背中に回した手をトントンと動かした


「愛」


「ん?」


「組絡み以外で女は抱いてねぇ」


「なんで?」


「仕事じゃなければ心が持たねぇ」


「でも仕事なら出来たんでしょ?」


あえて冷たい声をかけると
兄はサッと腕を解いて視線を合わせた


「それはもう5年以上前の話だ
言ったろ?愛じゃなきゃダメだって」


「そう?」


「愛が俺を変えたんだ」


「そっか」


「愛さえ居れば欲しいものなんて何ひとつない」


「欲張りは終わり?」


「あ、いや、それは終わらねぇ」


クスクスと笑う私の背中をトントンと撫でる兄の身体の震えがやっと止まった

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