めぐる月日のとおまわり

痛いだけの行為に、今日も奥歯を食いしばってこらえる。
制服が皺になるのはいやだったけれど、男は決して脱がしてはくれなかった。

減るもんじゃない、減るもんじゃない……

ひと筋流れ落ちた涙は、ただ肉体の痛みによるものだ。
鈍化した心の痛みはすでにわからなくなり、涙を形づくることはない。
いずれにせよ、男は彼女の反応など見ていない。
男の目に映るのは彼女ではなく、制服なのだから。

そっと顔の角度を変えて、シーツに涙を吸い取らせた。
減るもんじゃないのに、彼女は自分が燃えカスになるのを感じていた。
そして、このうす汚れたシーツの、シミのひとつになっていく錯覚に陥る。

ふっと浮かんだそれを、また奥へと押しやった。
考えることも、何かを望むことも、つらくなるだけだ。

窓が大きくガタリと泣いた。
抗議するように、雪が窓ガラスに張りついていく。
いつの間にか吹雪になっていたらしい。

痛む身体を引きずり、彼女は吹雪の中へと歩き出す。
高級チョコレートの包みは、玄関先に置いてきた。
見送りになど出ない男がそれに気づくのは、今日ではないだろう。

『市役所前』のひとつ手前にあるバス停は、普段から乗り降りするひとが少なく、誰もいなかった。
雨風を防ぐ屋根と壁はあるものの、近所のおじさんが手作りしたような安っぽい造りで、古い波形のポリカーボネート板はひび割れている。

ふたつあるベンチの片方に座ると、ポケットの中で携帯が震えた。

『コーラ買ってきて』

雪で湿った脚に力を入れ、彼女はまた吹雪の中へと歩き出す。



恋をしただけだった。
彼女以外、誰もそれを恋と認めなくても。






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