カラダから始まる政略結婚~一夜限りのはずが、若旦那と夫婦の契りを交わしました~
「あの……?」
「なんだか、泣きそうに見えたから」
心の内を言い当てられ、目を丸くする。独特なオーラを漂わせる彼は、穏やかな口調で続けた。
「隣、いい?」
声をかけられたのが初めてで戸惑いながらも、ぎこちなく頷く。「よかった」と緩く口角を上げた男性が隣に掛けた。
これがバーでの普通?もしかして、ナンパ?
少し警戒したのが伝わったのか、男性はくすくすと笑う。
「怖がらないでよ。ここは楽しい社交場なのに、ひとりで酔うのも寂しいでしょう?見るからに落ち込んでいるみたいだし、つい声をかけたんだ。話し相手くらいにはなれるかと思って」
優しい言葉が心に染みる。
こっちに深く踏み込む気はないようで、かと言って上辺だけの会話をするわけでもなさそうな絶妙な距離感だ。
彼がまとう雰囲気に好感が持てた私は、素直に厚意を受けとめると決めた。