カラダから始まる政略結婚~一夜限りのはずが、若旦那と夫婦の契りを交わしました~
冗談か本音かわからないセリフを言うところはいつも通りだ。
でも、心なしか声が穏やかになった気がしてほっとした。
すると、骨張った長い指が私の髪を撫でる。突然のスキンシップは、まだ慣れない。
「な、なんでしょう?」
「髪、まだ湿ってるね。ドライヤーは俺がしてもいい?」
視線を向けると、私が持っていたタオルを優しく掴んで、にこにこしている。もう、すっかりいつもの調子だ。
素直に頷いて身を任せた。
後ろに回った彼は丁寧に髪をとかしながら温風を当てていく。大事なものを扱うような手つきは優しくて、甘やかされている気分になる。
「桃の髪は綺麗だよね。艶々とした黒髪は、和服によく合う」
「嬉しいです。結構伸ばしているので、ドライヤーに時間がかかるのが難点ですけどね」
「そっか。じゃあ、たまにはこうして俺がやってあげるよ」
これは、気まぐれ?髪に触りたくなった、とか?
本心が読めずに戸惑っていると、やがて顔の横の毛を編み込み始めた。