カラダから始まる政略結婚~一夜限りのはずが、若旦那と夫婦の契りを交わしました~
不意打ちのプレゼントに嬉しさで胸がいっぱいになっていると、彼は鏡越しにこちらを見つめて続ける。
「月末の土曜日、桃は出勤ないだろ?俺も午後から仕事が入ってないから、一日俺に付き合ってほしい」
「わかりました。楽しみです。午前はお仕事なのに、一日ですか?」
「ふふ。出張に同行してほしいんだ。桃を連れて行きたいところがある。夜は、普通にデートしよう。このかんざしをつけておいで」
デートという甘い響きに、胸が鳴りだす。
新しいかんざしをつけていくということは、和装にしてほしいという意味だろう。ふたりで着物を着てお出かけなんて初めてだ。早くも約束の日が待ちきれない。
予想がつかないデートコースにドキドキしていると、ちゅっとうなじに口づけが落とされた。
驚いて振り向くと、色気を帯びた視線に貫かれる。
「もうっ、急にキスされたらびっくりします」
「ごめん。素直に喜んでくれたのが可愛くて、したくなった」
「またそうやってからかって」
「冗談じゃないよ。今朝、ホテルで言ったのも本当」
その言葉に、『惚れている』と告げられた記憶が蘇った。
向こうが話題に出さないのであえて触れずにいたのだが、今朝のやりとりはやはり夢ではなかったようだ。
とろけるようなキスを思い出して、かぁっと頬が熱くなると、心中を察したらしい彼は静かに立ち上がり、自室へとつながるふすまの向こうに消えた。
その夜は髪を解いて布団に入った後も、うなじに残る熱い唇の感触がずっと頭から離れなかった。