カラダから始まる政略結婚~一夜限りのはずが、若旦那と夫婦の契りを交わしました~
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「桃、準備はできた?」


 七月の月末。ついに約束の土曜日となった。玄関で、黒の無地の浴衣を着こなした旦那が待っている。

 彼の見立てた、白地に紺の古典柄が入った浴衣をまとい、隣に並ぶ。

 もらったかんざしを刺していると気づいたようで、言葉にできないほど愛おしそうに見つめられた。

 千里さんって、こんな顔をするんだ。

 気持ちを伝えられてからなにかが吹っ切れたような彼は、たびたび甘い表情を覗かせるようになってドキドキしてしまう。


「お待たせしました」

「ううん、大丈夫だよ。行こうか」


 さりげなく手を繋がれて、心臓が鳴った。緊張で手汗が気になるこちらをよそに、向こうは涼しい顔で歩きだす。


「あの、今日はどこへ行くんですか?午前中はお仕事なんですよね」

「着いてからのお楽しみ」


 にこやかにはぐらかされて、期待が高まる。初めての一日デートはすでに楽しい。

 出張先へは電車で最寄り駅まで向かい、そこからタクシーに乗るそうだ。

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