カラダから始まる政略結婚~一夜限りのはずが、若旦那と夫婦の契りを交わしました~
「俺はセンリ。君の名前を聞いてもいい?」
「私は桃です」
「桃ちゃんか。見た目通りの可愛らしい名前だね」
ちゃん付けで呼ばれるなんて、何年ぶりだろう。それこそ、男の人とふたりで喋るなんて久しぶりだ。
「年はいくつ?」
「二十六です」
「そうなんだ。五つは離れているかもって思ったけど、三個下なんだね」
童顔のせいか、若くみられていたようだ。子どもっぽく呼ばれたのもそのせいか。
バーに慣れた彼は二十九歳らしい。ちらりと見ると、左手に指輪はなかった。
「センリさんは、よくここに来るんですか?」
「時々ね。近くのショッピングモールで働いているから、気が向いたら仕事終わりに寄るくらいかな」
ベリーヒルズビレッジには、テナントが多く入るショッピングモールがある。日本の古き良き文化を発信する施設で、高級和菓子店や寿司レストランがあった。
そういえば、“あの”美澄屋の店舗も入っていた気がする。老舗呉服店は入りにくい雰囲気があるが、品の質が良く、信頼できる真摯な接客で好評だと噂に聞いていた。
私は、そこの若旦那と結婚するのだ。