カラダから始まる政略結婚~一夜限りのはずが、若旦那と夫婦の契りを交わしました~
トンとテーブルの上にお札を置いた彼女は、それだけを言い残して店から出て行った。
親睦を深めるためにランチに誘われたわけではない。
美冬さんは、“早く私の千里を返して”と、宣戦布告をしに来たのだ。
ひとり残った店内で、周囲の音が聞こえないほど追い込まれる。
幼なじみの恋愛事情を聞いたとき、すごく胸が苦しくなった。
自分が邪魔者扱いをされたことよりも、千里さんが他の女性を愛していたことがショックだったのだ。
今まで一緒に過ごしてきた時間や、向けられた視線、甘いセリフが全て色あせて思えて苦しい。並べられた嘘に絆されていたなんて信じたくない。
名前のつけられない負の感情が、ぐるぐる渦巻いて消えなかったが、やっとその正体に気がつく。
これは嫉妬だ。
愛のない政略結婚で、周りに決められた旦那は好きになれないと本人にも伝えていたのに、いつのまにか惹かれていた。