カラダから始まる政略結婚~一夜限りのはずが、若旦那と夫婦の契りを交わしました~
優しく甘やかしてくれて、大事にされていると勘違いして、好きになっていたんだ。
隠れて逢引するくらい愛し合っている幼なじみたちの前では、この想いは、どうあがいても一方通行なのに。
その瞬間、涙が溢れた。
ずっと張っていた緊張の糸が切れて、止まらない。
今さら気づくなんて馬鹿みたい。こんなタイミングで自覚しなくたっていいのに。
必死でこぼれ落ちる涙を堪えながら、周りに気づかれないよう頬につたう滴を拭う。
もともと結婚に期待はしていないはずだったのに、こんなドス黒い感情に振り回されるとは思わなかった。
おそらく、美冬さんと私の間でこのようなやりとりが行われているのを彼は知らない。今も、美澄屋の発展のために尽力しているはずだ。
千里さんの心にあるのは、大切な店と、本当に愛している幼なじみだけ。
私の存在は、妻でも婚約者でもなく、寂しさを紛らわせるためのちょうど良い身代わりだったんだ。
それから、昼休憩が終わるまで、足が凍りついたように席から立てなかった。