カラダから始まる政略結婚~一夜限りのはずが、若旦那と夫婦の契りを交わしました~
「ただいま帰りました」
「ずっと玄関の前に影があるから驚いた。ご飯できてるよ。先に食べる?」
「夕飯を用意してくれたんですか」
「うん。今日は早く上がれたからさ。一緒に食べようと思って作って待ってた」
何事もないように柔和な物腰でいる。
好きな人が、ご飯を作って帰りを待っていてくれた。明かりの灯る家に帰るのは、とても温かくてほっとする。
しかし、今の気持ちでは素直に受け止められない。
「ありがとうございます。すぐに着替えて、配膳を手伝いますね」
うまく視線を合わせられずに、素早く横をすり抜けて家へ入る。
するとそのとき、軽く腕を掴まれた。
「待って」
しゃがみながら覗き込まれて、ドキリとする。
こちらを見つめる目は、どこか不安げだ。
「なにかあった?」
言い当てられて胸が震えた。真剣なトーンで尋ねられて、つい言葉が詰まる。
『このまま結婚をしても幸せになれないと思うわ。千里も、あなたも』