カラダから始まる政略結婚~一夜限りのはずが、若旦那と夫婦の契りを交わしました~
美冬さんの声が脳裏をよぎる。
気持ちを自覚した今、他の女性は彼のこころの中にいて欲しくなかった。
私だけを見て。
お互い、利益のためだけに結婚すると決まったけれど、それだけでは満足できなくなった。
恋愛は、ふわふわしていて甘くて幸せなものだと思っていたのに、実際は、自分の知らなかった嫉妬や苦しみが顔を出して、心臓が握りつぶされそうになる。
「なんでもありません。私、着替えてきますね」
はぐらかす言葉に少し戸惑っている様子だったが、彼はゆっくり頷いた。
部屋に戻って簡易な着物に着替え、髪を下ろす。低い位置でひとつ結びにしていると、やや開いたふすまの向こうに千里さんの自室が見えた。
以前は資料が所狭しと畳の上に広げられていたが、仕事が落ち着いたようで、綺麗に整頓されている。
すると、机の上に雑誌の束が重ねてあると気がついた。
その表紙に、つい目を丸くする。