カラダから始まる政略結婚~一夜限りのはずが、若旦那と夫婦の契りを交わしました~
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「天沢さまですね。ようこそいらっしゃいました。染森さまは奥の和室でお待ちです」


 約束の日に庭園へ向かうと、管理人の男性に出迎えられた。

 ここは染森家の所有する別荘で、茶会がない日は茶道教室用に開放しているらしい。

 今日はなにも予定が入っておらず、管理を任されている男性以外に客人はいなかった。

 言われた通りに廊下を進み、角部屋のふすまの前で立ち止まる。


「失礼します」


 声をかけて開けると、藤色の着物を身につけた美冬さんが視界に入った。こちらを見上げるなり、艶っぽく口角を上げる。


「かしこまらなくていいですよ。作法に厳しい場ではありませんから。向かいの座布団へどうぞ」


 空気が張り詰めて、緊張感が漂う。

 ひんやりとした敵意は歓迎されていないことがひしひしと伝わってきた。

 ここまで威圧感を感じるのは初めてだ。だが、気圧されるわけにはいかない。

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