カラダから始まる政略結婚~一夜限りのはずが、若旦那と夫婦の契りを交わしました~
部屋に一歩足を踏み入れて促されるままテーブルを挟んで向かい合わせに座ると、精巧な人形のように美しい顔がわずかに首を傾げた。
「わざわざウチに呼ぶような真似をしてごめんなさいね。午前中に、ちょうど次の茶会の打ち合わせが入っていたから都合が良いと思って」
「いえ、お気になさらないでください。こちらこそ、時間を作っていただいてありがとうございます」
「あなたから連絡が来たときは驚いたわ。千里から聞いたの?」
「はい」
もはや、うやうやしい敬語は取り払ったようだ。知り合いとも友人とも呼べない関係で、ふたりきりの空間は空気が重い。
緑茶を振る舞われたが、口をつける余裕もなかった。
居心地の悪い沈黙が続く中、それを破ったのは美冬さんの一言である。
「それで、今回はどのようなご用件で?ついに別れる決心がついたのかしら」
目の前で赤い紅を引いた唇が弧を描く。
挑戦的な発言に、膝に乗せた掌を握りしめた。
小さな呼吸のあと、口を開く。
「いえ。今日は、美冬さんにお伝えしたい話があって来ました」