カラダから始まる政略結婚~一夜限りのはずが、若旦那と夫婦の契りを交わしました~
素性を知らされないままに口説かれて、そのままホテルで過ごして、見合い会場での暴露は心臓が止まりそうだったのをよく覚えている。
でも、知れば知るほど誠実で、真面目なところもあって、気を許した人にはとことん優しく甘い人だと知った。
影の努力を周りに見せないだけで、自らをかえりみないほど人一倍仕事に熱心で、美澄屋の若旦那としての責任を果たそうとしているんだ。
私と過ごす時間も大切にして、ずっとこの先ふたりでいる未来を想像できるほど穏やかな安らぎをくれる。
「私は妻として、旦那を疑うことは一切しません」
力強く言い切った。
目の前では、紅を引いた唇がきつく結ばれ、わなわなと震えている。
波立つ感情を深呼吸で抑えた彼女は、鋭い視線を向ける。
「さっきから聞いていれば、ずいぶんと自信たっぷりね。こっちには、私と千里の仲を証明する証拠があるのよ。忘れたとは言わせないわ」