カラダから始まる政略結婚~一夜限りのはずが、若旦那と夫婦の契りを交わしました~
その瞬間、千里さんは「ぷはっ」と吹き出して、綺麗な顔が楽しそうに綻んだ。
「あはは、かわいいね。帰ってからずっとそんな感じなの?」
「うっ、だって、千里さんが」
「そうだね。俺のせいだね。そんなに構えないでよ」
こちらに歩み寄って、よしよしと甘やかすように頭を撫でる仕草は、飼い猫をあやすようだ。
やっぱり歳下扱いをされているようだが、普段の軽いスキンシップとは違い、今日の触れ合いには愛しさが溢れている気がした。
余裕のある柔らかいまなざしは、いつもの彼と同じだ。だんだん心が落ち着いてくる。
「いい匂いだね。準備ありがとう。夕飯はなに?」
「近所の方にもらった夏野菜で揚げ浸しを作っています。そうめんに合うと思って。まだ作りかけなんですけど」
「いいね、美味しそう。少し汗ばんだから、先にお風呂入ってきてもいい?」
「あ、はい。どうぞ」
同居してから幾度となく交わされた何気ない会話なのに、どきりとしてしまった。
くすくすと口角を上げる彼には、こちらの考えが筒抜けだ。