カラダから始まる政略結婚~一夜限りのはずが、若旦那と夫婦の契りを交わしました~
やがて配膳が済み、ふたり向かい合って食事をした。すっかりあたり前になった日常に心が温かくなる。
着物を着るのにも慣れていなかったのに、部屋着として袖を通すようになった。風情のある広い日本家屋も、生活の場として馴染んでいる。
きっと、こんな穏やかな日々がずっと続いていくんだろう。
千里さんが帰って来れなかった夜は、家がやけに広く感じた。ひとりで眠る夜は寂しくて、少し怖かった。
でも、一緒にいれば不安はない。
招き入れてもらったこの家で、着付けの指導を受けたり、茶道の練習をしたり、並んで茶菓子を食べたり……たくさんの思い出ができた。
全て、あのバーの夜から始まったんだ。
そして今日。想いを伝えあった私たちは、やっと本物の恋人同士になれる。
クーラーの効いた部屋で、風呂上がりの私の髪を、千里さんが丁寧にタオルで拭いた。ドライヤー片手にクシでとかす彼に既視感を覚える。
優しい手つきに安心して任せていると、ふいにうなじにキスを落とされた。
「ひゃっ。せ、千里さん。びっくりします」
「あぁ、ごめん。つい」