カラダから始まる政略結婚~一夜限りのはずが、若旦那と夫婦の契りを交わしました~
掴まれた手から逃れようにも、容赦はしなくとも痛みを感じない絶妙な力加減で抵抗できなかった。
ふたりきりの部屋に逃げ場もない。
「もしかして、カウンターで声をかけた時から私だと分かっていたのですか?」
「そうだよ。桃ちゃんの容姿は知っていたからね。あのバーで会うとは思わなかったけど」
「ひどい。話を聞くフリをして、からかうつもりだったんですね」
「人聞きが悪いな。あれは周りへの牽制だよ。見るからに男のあしらい方を知らない女の子がひとりで酔っていて、悪い男にさらわれたらどうするの」
「せ、千里さんがさらったんじゃないですか」
「あたり前でしょう。自分の妻になる子を、他の男に触らせてたまるかよ」
この人は、誰?
優子の結婚式で会った好青年とも、バーで話を聞いてくれた紳士のセンリさんとも、見合い会場で挨拶をした爽やかな若旦那でもない。
でも、射抜かれそうなほど強い引力を放つ目と、ふわりと香る甘い香水は、知っている。