カラダから始まる政略結婚~一夜限りのはずが、若旦那と夫婦の契りを交わしました~
その瞬間、頬に手を添えられて流れるように唇を奪われた。柔らかい舌が触れ、呼吸の度に深くなる。
早く離れなければいけないのに、求められる気持ちよさでぞくぞくするなんて、矛盾している。
抵抗したいのに上手く体が動かせなくて、もどかしい。体温を感じた夜の記憶に震えて目が潤む。
「んっ、んん」
声を漏らすと、彼が離れた。
親指で自身の唇を拭う仕草は、まるで美しい獣だ。涼しげな表情は全く乱れていない。
本能が“この男は危険だ”と叫んだ。旦那になる美澄 千里は、誠実で真面目で穏やかな好青年という理想とはかけ離れた仮面紳士である。
「俺の妻になるんだろう?もっと、ってねだりたくなるほど溺れさせてあげるよ」
品のある微笑とともに宣戦布告のように告げられた口説き文句は、かりそめの夫婦の攻防戦の幕開けだった。