カラダから始まる政略結婚~一夜限りのはずが、若旦那と夫婦の契りを交わしました~
巷では、新郎新婦の友人たちが式場で出会って結婚するケースもあると聞くが、いざ自分に置き換えるとひどく難題に思える。
別れさせられると自覚していたせいで、気になる男性にも自分から近づかなくなっていた。
好きな人も、長らくできていない。そんな自分がもどかしくて、殻を破りたいと思う瞬間が何度もあった。
こんな恋愛下手な私も、誰かの隣で笑える日が来るのだろうか。
「ごめん、優子。お手洗いに行ってくるね」
声をかけて、その場を離れる。
庭園の廊下を進むと、神社の厳かな空気が頬を撫でた。招待客の賑やかな声から遠ざかった静かな空間は、心が清められるように涼しい。
視線を落とした先に見えたのは、落ち着いた柄の桃色の振袖だ。未婚の証に、ツキリと胸が痛む。
いつか、この着物が綺麗な白無垢になった時、私は心から幸せだと言えているのかしら。
「きゃっ」
そのとき、廊下の曲がり角から出てきた影とぶつかった。よろけた体を力強い腕が支える。