カラダから始まる政略結婚~一夜限りのはずが、若旦那と夫婦の契りを交わしました~
予想外の行動だったようだ。
そりゃあ、喉を潤しに行くとおもっていた婚約者が自分の分のコーヒーを用意してくるとは思わなかったのだろう。
コーヒーを見つめる彼に、元気づけるように続ける。
「頑張ってください。明日は、私で良ければ朝ごはんを用意しますから、ゆっくり寝ていてくださいね」
じっとこちらを見つめられた。
あまり嬉しくなかったかな。自由に棚のものを使ったのはまずかった?余計なお節介だったかもしれない。
少し不安になって様子をうかがっていると、コーヒーを置いた彼は軽く私の頭を撫でた。
「ありがとう」
それは一瞬だったけれど、今までで一番優しい触れ合いだった。
「そういえば、喉はちゃんと潤せた?天然水のボトルもあったでしょ?」
「あ、えっと。はい。ありがとうございます」
コーヒーを持ってくるためだけに台所へ向かったと見透かされている気もするが、それ以上なにも言われなかった。
「おやすみ、桃」
「はい。おやすみなさい」
ふすまが閉じて、再び部屋が夜の暗闇に包まれる。月明かりだけが差し込む和室には、気づかうようなタイピングの音が小さく鳴っていた。
「ふふ……甘いな」
気の抜けた呟きが聞こえた気がしたが、微睡む私にははっきりと聞き取ることができなかったのである。