カラダから始まる政略結婚~一夜限りのはずが、若旦那と夫婦の契りを交わしました~
紳士の仮面で偽った油断ならない男性だと気を張っていたけれど、私が見てきたのは全て千里さんの側面なのだ。
私をわざと騙して、弄ぼうとしたわけじゃないのかもしれない。
「桃」
ふいに声をかけられて、はっとした。
千里さんは、箸を置いてまっすぐこちらを見ている。
「やっぱり、この家で一緒に住まない?」
「結婚の前に、ですか」
「うん。君は、周りに勝手に決められた旦那は好きになれないと言ったけど、俺はもう少し夫婦らしくなりたいんだ。ご飯に誘わなくてもいつも顔を見たいし、桃の待つ家に帰って、早く上がれた日はおかえりを言いたい」
『俺の妻になるんだろう?もっと、ってねだりたくなるほど溺れさせてあげるよ』
見合い会場で宣言されたセリフが頭をよぎった。
これは、駆け引きの一環なのだろうか。私を好きにならせるための口説き文句?
それでも、嘘で言っているとは思えなかった。
私たちは、家に縛られて決められたかりそめの夫婦だ。だけど、ふたりの間に芽生えた不確かな感情は、愛や情とは呼べないまでも、マイナスなものではない。