カラダから始まる政略結婚~一夜限りのはずが、若旦那と夫婦の契りを交わしました~
おそらく、たかが見合いといえど、天沢家の人たちは断る選択肢など思い浮かべていないだろう。
昔から、娘の意思など聞いてくれたためしがない。
このままじゃ、本当に結婚させられる……!
気付けば、家を飛び出していた。
向かったのは、地元の最寄駅から電車を一本乗り換えたところにある会員制のバーだ。
限られた人しか入れない社交場で「ここなら、桃もいい出会いがあるんじゃない?」なんて優子と登録した店にひとりで来ている。
しかも、見合いが決まった当日に。
「お客さま、おひとりですか?」
「は、はい」
「よろしければ、カウンターへどうぞ」
こんなところに通った経験がないのが丸わかりだ。
パールホワイトのシンプルなトップスに薄いカーディガン、ミントグリーンのシフォンスカートという装いは、バーに来るには少し地味だった。
だけど、着飾って出かけられる心境ではない。とにかく、あの家には居たくなかった。
ひとりになれる場所で慣れもしないお酒を飲んで、すべてを忘れてしまいたい。