カラダから始まる政略結婚~一夜限りのはずが、若旦那と夫婦の契りを交わしました~


 バーは、ベリーヒルズビレッジという高級オフィスビルの55階にあり、カウンターやソファ席の奥に個人的に使用できる部屋もあるようだ。

 バーテンダーの目の前でお酒を飲むなんて初めてで、飛び出してきたわりに緊張してしまう。でも、いまさら場違いなんて気にしない。

 あまり強くないカクテルをお任せで頼み、口をつけた。じんわりとしたアルコールが喉を通る感覚に、なぜだか泣きそうになる。

 反発して家出だなんて、子どもみたい。

 でも、結局あの家に帰るしかないのだ。見合いは先方の予定に合わせ、来月だと聞いた。もう逃げられないのなら、今日くらい羽目を外したって許してもらえるよね。


「大丈夫?」


 ふと、隣から低い声が落ちてきた。

 驚いて視線を向けると、グラスを片手に立つ男性が見える。テーラードジャケットに細身の黒パンツを合わせて佇む姿は、見惚れるほどカッコいい。

 バーの雰囲気に溶け込んだ大人っぽい彼は、黒髪のオールバックで、涼しげな目元がはっきりと見えた。

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