カラダから始まる政略結婚~一夜限りのはずが、若旦那と夫婦の契りを交わしました~
「あの、私は」
「ううん。返事はしないで。“そういう感情は持てない”って言われるの、わかってるから」
それは、彼にバーで告げたセリフだ。
周りに勝手に決められた旦那は好きになれないと思っていた。向こうもそれを理解している。
でも、私は今、なにを考えた?
伝えられた彼の気持ちを拒絶するつもりはなかった。むしろ、心が震えて嬉しいとさえ感じている。
千里さんと同じ時間を過ごすうちに、結婚に期待をしていなかった過去の私が薄れていく。
もう、結婚が嫌で家出をしたあの頃の自分はいないのだ。
そのとき、低い声が耳に届いた。
「嘘じゃないよ。俺はもう、君を騙したりしない」
目を見開いた瞬間、柔らかい唇が首筋に触れた。跡を残さぬ程度についばまれ、体中に甘いしびれがはしる。
「あ……っ」
つい、足の力が抜けてベッドに座り込むと、後を追って片膝をベッドに上げた彼は、スイッチが入ったようにキスの雨を降らせた。
触れ合った唇同士が熱を帯びる。角度を変えて口づけが重ねられ、目が潤んだ。